ブログ59 大阪府中学1年生殺害事件を踏まえた関係機関の連携強化の必要性について

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1 このたび、新たなご賛同者として全日本教職員連盟さまにおなりいただきました。心から厚くお礼申し上げます。

 さて、大阪府で中学1年生の平田奈津美さんと星野凌斗くんが深夜はいかいの末殺害された事件は、過去に子どもに対する凶悪犯罪で逮捕されたことのある45歳の男が8月21日に逮捕されましたが、本事件は本年3月の川崎市上村遼太君殺害事件を思い起こさせます。上村君事件は、誰もから愛された中学1年生の上村君が不登校、深夜はいかいを続けるようになり、深夜に非行少年グループに殺された事件です。
 わたしどもは、上村君事件後の本年3月25日に、国及び川崎市・神奈川県警察あてに「子どもを守るための情報共有と連携しての活動を求める緊急要望書」を提出しました。
https://www.thinkkids.jp/wp/wp-content/themes/hospita02-3/images/pdf01.pdf
同要望書では、

「子どもたちは、家庭では親からの虐待やネグレクト、放任や過干渉、親以外の異性を家庭に連れ込むなどの子どもに有害な生活態度、学校ではいじめや体罰、地域では非行少年や大人からの暴力や性犯罪など、家庭、学校、地域社会で様々な危険にさらされています。
 不登校事案の中には2004年の岸和田市中学生餓死寸前事件、2005年の福岡市女児18年間監禁事件など親が虐待・監禁していた事案も少なくなく、また、子どもたちが不登校や深夜はいかい、家出、非行少年との交友等に至る原因が、虐待その他親の子どもに有害な生活態度から家から逃げ出したい、家に居づらくなったことにあることが少なくありません。

 したがって、子どもたちについて家庭、学校、地域での細切れの情報をそれぞれの機関が抱え込み、連携もせず対応することでは到底子どもたちを守ることはできません。
 各機関が家庭での虐待等の情報、学校でのいじめや不登校の情報、地域での深夜はいかい、非行少年グループの情報など保護が必要と思われる子どもに関わる情報を共有した上で、人員を出し合って共同で家庭訪問や立直り支援等実質的に連携した活動を行わなければ、子どもを様々な危険から守ることはできないことは明らかです。
・・・
 したがって、上村くん事件や多くの虐待事件を受け、我々が取り組むべきことは、学校、児童相談所、市虐待対応部局及び警察が必要な情報を共有し、連携して子どもを守る機能を最大限に高めることであり、そのためには、

1 学校は、不登校事案のうち、虐待・ネグレクト、親の有害な生活態度、深夜はいかい、非行少年との交友、犯罪被害に逢うおそれ等子どもに危険が生じるおそれがある事案については、速やかに警察、児童相談所に通報する。
2 児童相談所・市虐待対応部局は、虐待情報については、速やかに警察、学校(幼稚園、保育所を含む)に通報する(ただし、学校に対しては通園・通学している者に限る。)。
3 警察は、家出、深夜はいかい、非行少年グループとの交友等が認められる子どもに関しては、児童相談所、学校に通報する。
4 学校、児童相談所・市虐待対応部局、警察は、上記により情報を共有し、これらの子どもについて、共同での家庭訪問、立直り支援等子どもを守るため連携して活動する。」

ことが不可欠とし、そのための法整備を求めています。

 本事件でどのような事情があったか全く明らかになっておらず、以下あくまで一般論ですが、言うまでもなく、子どもの深夜はいかいは犯罪被害に遭う危険が高いわけで、そのような行動をとらないよう家庭・学校・地域社会は努めるべきですし、学校や警察、児童相談所もそのような兆候のある子どもには、連携して被害に遭わないように指導その他の対策を講じる必要があります。
 ただ、警察で少年非行問題に携わったことのある私の経験からは、家出や深夜はいかいする子どもにはそうせざるを得ない事情があることが多く、単に子どもを叱ったり、問題児童だとして子どものみを指導の対象とするだけでは全く解決しません。大阪府警察で生活安全部長を務めていた際には、親から虐待されていたり、全く放任されていたり、親が離婚しているケースでは父親が女を家に連れ込んだり、母親が男を家に連れ込んだりするなど、子どもが家にいたくないと思うことが無理からぬ場合があることが多々ありました。このようなケースの場合、家庭の問題を解決しないと、子どもが家出や深夜はいかいを続けるのは無理からぬことで、警察が家出や深夜はいかいしている子どもを見つけて家に連れて帰るだけでは全く解決しません。

 学校、児相、警察が情報共有して連携して家庭訪問し、虐待がある場合はもちろん、そうでなくとも親の有害な生活態度が原因である場合や、学校でのいじめ、地域社会での非行少年との交友がある場合等には、その深夜はいかい等の原因となる問題の解決を図る取組をしなければ、子どもの家出や深夜はいかいはなくならず、上村君や平田さん・星野君のような犠牲となる子どもは後を絶たないでしょう。そのためにも、上記私どもの要望書記載の法制度を整備する必要があり、改めて国に法整備を求めるとともに、それまでの間、川崎市と神奈川県警察は情報共有の仕組みをとることを求めます。

2 川崎市は、私どもの要望を受け、非行情報を学校から警察に通報する方針を決め、年内にも実施すると聞いていますが、虐待情報を児童相談所から警察へ提供することについてはあいかわらず消極のようです(川崎市と神奈川県警察とでどのような協議がなされているのかも承知しておりません)。
 虐待情報の児相と警察の情報共有の必要性については、これまで多々述べたとおりですが、深夜はいかいや家出事案に限っても、情報共有がなされないと、家出・深夜はいかい少年を警察が保護しても、虐待家庭にそのまま返してしまうことになるのです。児相からの情報提供があれば、警察が保護した子どもが虐待を受けていると把握することができ、児相と連携しての虐待抑止のための家庭訪問や悪質な場合には一時保護・逮捕するなど、子どもを守る取組ができるのです。

 学校と警察の情報共有は、まだ一部の県では行われていませんが、上村君事件後それなりに進んでいます。しかし、児相と警察の情報共有は進んでいません。私どもが要望書を提出した、川崎市と神奈川県警察(本年3月25日)、東京都と警視庁(本年6月4日付)でも合意されたとは聞いていません。名古屋市と愛知県警察については、私どもから4月に働きかけ協議を続けてもらっておりまして、近々要望書を正式に提出する予定です。

 従来学校も案件抱え込み体質を批判され、児相同様、警察との情報共有を拒む体質がありましたが、いじめ事件や不登校事案での不適切な対応への批判を受けるなどし、徐々に情報共有が進みつつあります。しかし、児相の他機関排除の体質は相変わらずです。

 2015年4月に明らかになった足立区の両親が次男の玲空斗くん(当時3歳)をウサギ用ケージに閉じ込めた上、タオルで窒息死させた虐待死事件(殺害は2013年3月頃)では、5月1日の毎日新聞によれば、足立児相は11回家庭訪問したが2回しか子どもに面会できなかったといいます。2014年6月27日読売新聞などによれば、足立区が9回電話したが会えず、足立児相は家庭訪問の間隔を5ケ月も空けて、しかも子どもに面会できなかったにもかかわらず、そのままとし、次の家庭訪問まで半年近くも空けるなどし、2013年3月頃には殺されてしまったとされています。家庭の状況をみれば容易に危険な保護者であることは分かっていたはずですが、案件を抱え込み子どもをほったらかしにしていたのです。
 何度も言いますが、児相が警察と情報共有し、連携して活動していれば、玲空斗くんは救えたはずです。こんな酷い殺され方をすることはなかったはずです。親が面会を拒否しても警察官なら児相の職員のようにあっさりと引き下がることもありませんし、警察官が家庭訪問すれば、この親もこのまま虐待を続けると逮捕されると考え、虐待をしなくなったでしょう。人員の少ない児相だけの家庭訪問では当然頻度も少なくなるし、虐待の継続・エスカレートを防ぐ効果がないことが多いのです。児相の職員だけの訪問で虐待を止める親は、そもそもそれほど問題のない親です。危険な親ほど、児相が案件を抱え込まず、警察と連携して頻繁に家庭訪問をしなければ、虐待の継続は止まりません。このような最悪の結果となってしまうのです。
 東京都内では、昨年1月の葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件でも、児相は把握していた愛羅ちゃんの家庭に関する情報を警察に提供せず、110番通報で駆け付けた警察官が親に「夫婦喧嘩だ」と言われ騙されて、体に40か所ものあざがあった愛羅ちゃんの体を調べず、そのまま帰り、その5日後に虐待死させられる事件が起こっています。児相から警察に情報提供があれば、そして、警察が虐待家庭について住民から110番通報がなされた場合に現場に向かう警察官に虐待家庭であるということを伝えるシステムを整備すれば(既にストーカー・DV被害女性についてはシステムが整備されています)、警察官は注意深く子どもの体を調べ、親に騙されることなく、虐待を見抜くことができ、愛羅ちゃんは殺されずにすんだでしょう。

3 以上、今回の事件も踏まえ、児童相談所と警察の虐待情報の共有による効果は、虐待情報の共有がなされることにより、

(1)家出や深夜はいかいを続ける子どもについて、学校も含めて連携して家庭訪問するなどして子どもが家庭や学校、地域社会で抱える問題を解決することにより、深夜はいかい・家出を防ぐことができる
 川崎市上村君事件、大阪府平田さん・星野君事件のような深夜はいかい、家出を原因として殺害される事件を防ぐことができる
―今のままでは、関係機関が連携して子どもが家庭・学校・地域社会で抱える問題の解決につながる取組を行っておらず、問題を抱えた子どもの家出・深夜はいかいを防げない

(2)地域住民の110番を生かすことができる
 110番通報が入りながら、警察官が親に「夫婦喧嘩」と言われ騙され虐待を見逃し、その5日後に殺害された「葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件」の再発を防ぐことができる
―今のままでは折角の110番が全く生かされていない

(3)児相が案件を抱え込み家庭訪問もせず虐待死に至るという事件を防ぐことができる
「足立区玲空斗ちゃんウサギ用ケージ虐待死事件」ほか、児相が案件を抱え込み家庭訪問もせず、ほったらかしにしたことにより虐待死させられた多数の事件の再発を防ぐことができる
ー今のまま1人当たり140件を抱える児相に任せていてはいつまでも虐待死が続くだけ

 いつまでも犠牲になり続ける子どもを限りなくゼロに近づけるためには、児相、警察、学校の虐待情報の共有と連携しての家庭訪問の実施が不可欠で、そのための法整備が是非とも必要です。そもそも児相はなぜ警察と情報共有しないのか全く理解できませんし、警察も今のままでは、葛飾区愛羅ちゃん事件のような折角の110番を生かすことなく虐待死に至らしめる事件の再発を防げません。「子ども虐待死ゼロを目指す法改正」を求める署名運動にご理解ご支援を賜りますようお願いいたします。