ブログ62 千葉で一時保護を解除され家庭に戻された乳児が死亡した事件について

1 本年9月4日千葉で、23歳の父親が、昨年5月、生後間もない当時2ケ月の長男の腕を骨折させたとして逮捕されました。骨折の後長男は児相に一時保護されていましたが、10月に自宅に戻され、その1月後の昨年11月、当時8ケ月で、頭部への衝撃による脳の損傷が死因で死亡しています(死亡については捜査中)。

 本事件は、2013年7月に和歌山市で起こった父親による星涼ちゃん(当時2歳)虐待死事件と極めて類似しています。生後まもない2ケ月の当時、星涼ちゃんは父親から骨折を負わされ、逮捕されたのですが、検察が起訴猶予にしたため、児相が一時保護していた星涼ちゃんの一時保護を解除し、家に戻してしまい、その1ケ月後に虐待死させられたという事案です。和歌山の児相は全く理解できない対応をしたわけですが、なぜ、千葉児相はこの事件を教訓にしないのか、さらに全く理解に苦しみます。

 児相の一時保護の解除が妥当なのか極めて疑われる事案ですが、解除するなら警察と連携した安全確保計画の策定とそれに基づく警察と児相が連携した頻繁な家庭訪問が必要でした。いずれも、シンクキッズの法改正案で求めている取組です。また昨年8月には夫婦間のトラブルで警察に相談があったとされています。この時点で警察は児相と情報共有できていたのか、情報共有して連携して対応すれば殺害されずにすんだのではないか、検証が必要です。一つの機関で子ども虐待は対応できません。いずれにしても児相と警察の情報共有と連携しての対応がなされていれば救えた命だったと思うと、一刻も早い法改正が急務です。

2 この事件の対応でさらに問題なのは、児相は、妻の実家で祖父母と同居して養育することを条件に長男を親元に帰したとされていながら、十分な調査、抜き打ちでの家庭訪問をしていないことです。このような条件はしばしばつけられるのですが、守られないことも珍しくありません。2004年小山市で二人の兄弟が同居人に殺害された事件もそうでした。本事件でも、父親はアパートに転居し、そこで長男と同居していたようですが、児相が家庭訪問に行くと子どもは実家にいたとされ、児相は条件は守られていたと理解していたとされています。 しかも、児相は連絡した上で家庭訪問していたとされています。事前に連絡したのでは、父親は条件を守らずアパートで同居していても児相は気づくことができません。抜き打ちで家庭訪問しなければ条件を守っていると誤魔化され、あるいは虐待を隠ぺいされる危険があることは明らかです。子どもの命がかかっている案件でこんな対応はありえません。児相に虐待対応の適性がないことはこのことからも明らかです。
 一つの機関だけで子どもを守ることはできません。ましてやこんな対応をする児相には。児相と警察の情報共有と連携しての対応を義務付けなければ、いつまでも同じような事件が続きます。

3 次に、事実関係が不明なのですが、長男が骨折させられた際に病院と児相は警察に通報したのかどうかも問題となります。暴力的な親の起こした悪質な犯罪について、警察に通報がなされ虐待親の刑事責任の追及がなされると、虐待親が懲りて、自分の子どもを傷つければ警察に捕まると学習して、虐待のエスカレートが抑止されます。他人の子どもを故意に骨折させれば逮捕されます。自分の子どもを骨折させてもお咎めなしでは、暴力的な親にとって虐待の抑止になりません。むしろ、子どもに重傷を負わせても何の問題もないと学習してしまうだけです。警察に通告されたのかどうか検証されなければなりません。

 もし、児相が警察に通報しなかったのであれば、なぜ通報しなかったのか、親が乳児の腕を骨折させても、刑事責任が追及されることを学ばせて、虐待抑止を図る必要性があるとは考えなかったのか、親は他人の子どもを骨折させることは許されないが、自分の子どもを骨折させることは許されるのか、「子どもは親の所有物」とでも考えているのか、このような考え方は厚労省・全国の児相に共通の方針なのか、明らかにされるべきと考えます(もし、警察が通報を受けながら刑事責任の追及をしなかったのであれば、同様になぜしなかったのか明らかにされるべきことは当然です。)。
 私は病院から虐待対応の相談を受けるケースが少なからずありますが、そのような相談に対しては、児相だけへの通告ではだめで警察にも通報してくださいと強くお勧めしています。本ケースでは一時保護しましたが、子どもに重傷をおわしても児相は一時保護せず、警察に連絡もせず、そのまま退院させ、その後子どもが殺されるケースは多数見られているのです。児相が案件を抱え込み警察に通報しない現状では、病院からの警察への通報が、子どもを守る鍵となります。児相に虐待通告をしながら、子どもが虐待死させられてしまったという経験をお持ちの多くの病院や学校の関係者は、なぜ児相に一時保護するよう、あるいは一時保護を解除しないよう強く求めなかったのか、なぜ児相のみに任せてしまい、警察に通報しなかったのか、と悔やんでおられます。

 子どもに重傷を負わせながら刑事責任が追及されないままでは、親のわが子への虐待は一向にとまらず、エスカレートすることが通常です。本件もその可能性がかなりあると思いますし(立件できるかはどうかはともかく)、前に述べたように2013年7月の和歌山市星涼ちゃん虐待死事件はまさにそのような事件です。一つの機関だけでは子どもを守ることはできないのです。

4 この事件で、千葉児相は「やるだけのことはやった」と話しています。この発言で思い出すのは、3.11後に東京電力の清水正孝社長が記者会見を開き、地震以来これまでの対応について「ベストを尽くした」と力説したことです。未曾有の事故を起こしながらこのような発言は自己を正当化し、責任を免れようという印象を強く与えるものでした。児相と東電のこの発言に共通するのは、反省、検証しようという意識がないのではないかということです。2012年10月、広島県府中町で小学5年の女児が児相の判断で施設から母親の元に戻され、バットで殴り殺されるという事件がありました。この際の児相の所長は「家庭に戻した判断に間違いはない」旨コメントしています。母親の元に戻す際安全確保計画も立てず家庭訪問もせず、ほったらかしにしていたのですが、反省しているようには見受けられません。自己の責任で子どもを家庭に戻し子どもが殺されても検証もせず、「やるだけのことはやった」「間違ってない」で済むはずもありませんが、児相は同様の対応を私の知る限り10年以上続けています。反省も検証もしない組織であると言わざるを得ません。

5 何度も言っていることですが、諸外国で常識となっていることは、子ども虐待は一つの機関だけで対応できないということです。日本より20、30倍もの態勢を有するアメリカやイギリスの児童保護部局でも、警察と全件虐待情報を共有し、警察と連携した活動を行っています。なぜ一人当たり140件もの案件を抱え、家庭訪問すらできず、本件をはじめずさんな対応を繰り返している日本の児相が警察と情報共有・連携しての活動をしないのか。それが原因で、本事件をはじめ、繰り返し繰り返し児相が知りながら子どもの命を救えない事件が続いているのです。反省も検証もなく、同じ失敗を繰り返し、虐待対応に適性のない児相にこのままの対応を続けることを許すことは、われわれ大人の子どもたちへの背信です。私どもシンクキッズの求める法改正案にご理解ご支援いただきますようお願いいたします。