ブログ76 「子ども虐待死ゼロを目指す法改正の実現に向けて」を上梓しました

book201604

 いつも、子ども虐待死ゼロを目指す署名活動にご理解ご支援賜っておりますことに厚く御礼申し上げます。

 このたび、「子ども虐待死ゼロを目指す法改正の実現に向けて」(エピック社)という書籍を上梓しました。私が弁護士となり9冊目の、子ども虐待に関するものとしては、「法律家が書いた子どもを虐待から守る本」(中央経済社)に続くものとなります。

 前著は、学校、病院、警察等の各機関向けのQ&Aや国民への通報を働きかけるなどの一般的なといいますか、他にも見られる内容なのですが、今回の書籍は、多分本著しかないであろう「怒り」の本です。

 何に対する「怒り」かというと、子どもを虐待死から守る効果的な対策があるにもかかわらず、その対策は欧米では当然なされており、私がご賛同をお願いしたすべての方々にご賛同いただいた、誰が考えてもそう思うに違いない、なぜ今までやっていないのか不思議で仕方がない「児童相談所と警察との情報共有と連携しての活動」であるわけですが、厚生労働省も警察庁、児童相談所もそれを受け入れず、今までどおりの、縦割りで、連携もせず、結果として虐待されている子どもを助けることのできない、これまでどおりの取組みを続けることへの怒りです。

 ご高尚のとおり、私が代表を務めるNPO法人シンクキッズは、2014年夏から、日本ユニセフ協会、全国犯罪被害者の会(あすの会)を共同呼びかけ人とし、日本医師会、日本小児科学会等多数のご賛同を得て、子ども虐待死ゼロと虐待を受ける子どもを可能な限り少なくするための法改正を求める署名運動を実施し、2015年末までに35,000人の署名と要望書を安倍総理大臣らに提出しました。その間、厚生労働省、警察庁や東京都、愛知県・名古屋市、大阪府、神戸市等の児童相談所や警察の幹部と直接面談し、法改正と児相と警察との情報共有と連携しての活動を求め、知事らあてにも要望書を発出してまいりました。

 これらを受け、政府も官邸に「児童虐待防止関係省庁副大臣会議」を設置し、私も同会議で上記法改正の意見を述べるなど対策が進むと思われましたが、本年3月29日に政府は児童福祉法・児童虐待防止法の改正案を閣議決定し、今国会で法改正を行う予定でありますが、私どもの求める肝心の児相と警察の情報共有は盛り込まれず、上記自治体の児童相談所も警察との情報共有に応じていません。これでは、子ども虐待死が減少するとは思えません。

 本書では、私の要望活動に対する厚生労働省、警察庁や上記自治体の幹部の対応について記載しこれらの組織の情報共有すら拒む真の理由として私が実感した「これまでの対応を変えたくない」、「他機関との連携など面倒くさい」と考えているとしか思えないお役所の体質について指摘しております。

 さらに、本書では、児童相談所や警察が知りながら虐待死を防ぐことができなかった31事例について紹介し(東京都足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件、東京都葛飾区虐待死事件については、下記に概要を記載)、その多くで児相と警察が情報共有して連携して対応していれば、子どもは殺害されることはなかったことを分析しております。その上で、子ども虐待への対応について権限が集中している児童相談所が、態勢がないにもかかわらず警察等関係機関と情報共有すらせず案件を抱え込み、家庭訪問すらほとんど十分にしていない実態を明らかにし、児相が警察等関係機関と情報共有し、連携して対応することなどを柱とする法改正案を条文の形式で紹介しております。

[東京都足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件]
 2013年3月頃、東京都足立区の両親により次男の玲空斗ちゃん(当時3歳)がウサギ用ケージに閉じ込められた上、タオルで窒息死させられた事件。本事件では、2014年6月、次女を虐待の疑いで一時保護し、父親を傷害罪で起訴。玲空斗ちゃんが行方不明で殺害された疑いがあったことから、警察が1年にわたり遺体を捜索。その後荒川に捨てたと父親が供述し、荒川を捜索するも遺体は発見されなかったが、ウサギ用ケージは発見されたことから、監禁致死事件で両親を2015年5月起訴。
足立区は9回電話するも両親と話をすることができず、足立児相は11回家庭訪問したが2回しか子どもに面会できなかったと説明している。児相が玲空斗ちゃんが生きていることを確認したのは2013年2月が最後で、その後家庭訪問しても子どもの安否を確認できなかったにもかかわらず、放置。ようやく警察に連絡し、警察とともに家庭訪問したのは2014年6月で、玲空斗ちゃんはその1年3月以上前に殺害されており、次女も虐待により衰弱しており命の危険があった。児相が警察と情報共有し、遅くとも親が子供に合わせようとしない時点で、警察とともに家庭訪問していれば、玲空斗ちゃんは殺されずにすんだ。

[東京都葛飾区愛羅虐待死事件]
 2014年1月、東京都葛飾区で、当時2歳の愛羅ちゃんが父親に継続的に虐待を受け、殴り殺された事件。児相は愛羅ちゃんの家庭について「見守り中」であったが、警察に情報提供していなかった。住民から「子どもの泣き叫ぶ声がする。虐待ではないか」と110番通報があり、警察官が駆け付けたが、親から「夫婦喧嘩だ」と言われ、虐待を受けていたことを見抜くことができず帰ってしまった。その5日後に愛羅ちゃんは虐待死させられた。遺体には40か所ものあざがあった。
 児童相談所から警察に情報提供されていれば、駆け付けた警察官が、「夫婦喧嘩だ」という親の言葉をうのみにすることなく、子どもの衣服をめくるなどして子どもの体を調べ、体に多数のあざがあることを発見できれば、愛羅ちゃんは殺されずにすんだ。

https://www.sankei.com/west/news/160413/wst1604130055-n1.html

https://japan-indepth.jp/?p=27028