ブログ81 「情報共有」は法律に盛り込まれず、附帯決議がつけられました

いつも「子ども虐待死ゼロを目指す法改正を求める署名運動」にご理解賜っておりますことに厚くお礼申し上げます。

 2016年5月27日に、児童福祉法・児童虐待防止法の改正法が成立しました。私どもが要望しておりました「児童相談所と警察の情報共有と連携しての対応」については規定されませんでした。ただし、参議院厚生労働委員会で、

 「児童虐待は刑事事件に発展する危険性を有しており、児童相談所と警察等関係機関が連携した対応を行うことが重要であることから、児童虐待案件に関する情報が漏れなく確実に共有されるよう必要な検討を行うとともに、より緊密かつ的確な情報共有が可能となるよう児童相談所の体制の強化についても検討すること。」

という付帯決議が全会一致でつけられました。この付帯決議により、今後情報共有の実現に向けて取り組んでいく有力な手かがりができたことが救いです。
 このほかの要望事項の中では、「望まぬ妊娠等子育て困難な妊産婦を支援する仕組みの整備」については盛り込まれ、児童相談所の一時保護の基準の法制化については、法律には基準を設けないが、厚生労働省で基準を作成する、ということになりました。

 今回は折角の法改正の機会だったのですが、日々家庭内で虐待され続け、虐待死させられる危険に怯えている多くの子どもたちを救う、緊急で効果のある仕組みである「児童相談所と警察の情報共有と連携しての対応」は法律に盛り込まれませんでした。
 法律に理念規定を設けようが、国と自治体の役割を整理しようが、児相の体制や権限を若干強化しようが、児相が案件の抱え込みをやめ、警察等他機関と情報共有して連携して子どもを守る活動を現場で活発化しないと、現場での活動を強化しなければ、家庭という密室内で助けを求めることもできない数多くの子どもたちを救うことはできないのです。現在はほとんど行われていない、現場での児相と警察の協力、具体的には、一軒でも多くの虐待家庭を一回でも多く訪問し、子どもの安否を確認し、親を指導・支援する活動や、警察が110番通報や深夜はいかいの子どもの保護、巡回連絡など警察活動で被虐待児と接している数多くの機会を逃すことなく、被虐待児を保護する、そういうことをしなければ、何も変わらないのです。これまで、現場の執行力がほとんどない児相に任せきりにし、このような児相と警察の連携の取組はほとんどなされていません。その結果が、児童虐待防止法制定以来の10数年間、2度の法改正もし、それなりに児相の権限や体制の強化をしながら、悪化の一途をたどっている、という惨憺たる、子どもの命を見殺しにし続けている、現在の情勢なのです。

 子ども虐待は一つの機関だけで対応できるほど甘いものではないのです。しかも、児相という組織は、地域での活動は行わず、電話がかかってくるのを待つだけで、職員も圧倒的に少なく、県内に2、3か所しかない県もあり、こんな組織だけで子どもを守れるはずがないのです。警察は多くの警察官が24時間休みなく地域で活動し、虐待家庭や被虐待児と接触する場面も多く、情報もよく入ってくるのです。アメリカやイギリスの児童保護部局は、日本の児童相談所の20~30倍の態勢を有していますが、警察と全件虐待情報を共有し、原則共同調査をしているのです。そのくらいやらないと、子どもを守ることはできないのです。それにもかかわらず、厚生労働省と警察庁の「連携など面倒くさい、今までのやり方を変えたくない」といううんざりするほどの役人根性に今回は阻まれてしまいました。

 救いは、政治です。今回、厚生労働省と警察庁には拒否されましたが、参議院厚生労働委員会で、上記のような付帯決議を付けていただきました。法案の修正が無理なら、せめて付帯決議をとお願いした議員の方々は、すべて情報共有の重要性をご理解いただき、全会一致で「児童虐待案件に関する情報が漏れなく確実に共有されるよう」検討することを政府に求める付帯決議をつけていただきました。衆議院厚生労働委員会では公明党の古屋範子議員、参議院厚生労働委員会では、社民党の福島みずほ議員、無所属の薬師寺みちよ議員から、児童相談所と警察の情報共有の必要性についてご質疑いただき、付帯決議を付けていただきました。
 今回分かったことは、民間の皆様はもちろん、国会議員の方もすべて、児童相談所と警察の情報共有と連携しての活動の実現に賛成で、反対したのは、厚労省・児童相談所と警察庁だけだったということです。役人の「今までのやり方を変えたくない。連携なんてめんどうくさい」といううんざりするほどの役人根性が、子どもを虐待から救う取組の最大の障害なのです。

 また、警察庁から議員の方々への説明として、児相と全件情報共有をしない理由として、警察が児相から全件情報をもらうとそのデータの入力が大変なんですよと聞かされ、呆れました、という話をうかがいました。
 欧米では当然の、子どもの命を守るために有効な取組(情報共有が有効であることは警察庁も認めています)をしない理由が、データの入力が大変だからなんて、正気かと、耳を疑いました。
 児相の把握する虐待案件の3分の1は警察経由で、大都市では半数近くに上っています。そもそも、かなりの案件は最初から警察は把握しており、適切に対応するため、110番通報登録システムに入力していなければならないのです。残りの3分の2(大都市では半分)の案件の入力が大変だから、生命の危険にさらされている子どもの情報はいりませんというのは、手間暇がかかるので警察は子どもを守りません、というのと同じで、これが警察の本音?、突き詰めると、虐待かもしれないと思っても110番してくんなよ、児相に通報しろよ、というのが警察の本音?、と愕然とします。(ただし、警察の名誉のために言いますと、全員がこんなことを言っているわけではなく、警視庁、愛知、大阪、兵庫の各府県警察の幹部の方には情報共有が必要として受け入れていただきました)

 役所はこのような状況ですので、今後は、政治に直接働きかけ、子ども虐待死ゼロを目指す法改正を求める運動を引き続き行ってまいる所存です。今後とも、引き続き、ご理解ご支援賜りますようお願いいたします。