ブログ93 救えなかった虐待事件が続く中、児童相談所が情報共有を拒むことは許されない

 本年5月、兵庫県姫路市で、2年前に両親が当時4歳の長男に虐待を加え、逮捕され、その後長男が児童養護施設に保護されていながら、その後この両親の間に生まれた次男について両親から持ち上げられ床に落とされ、腹部を蹴られ意識不明の重体に陥らせた事件が発生しました。また、6月28日には静岡県沼津市で生後2ケ月の女児を殺害したとして実父が殺人罪で逮捕されました。いずれの事案も児童相談所が関与していました。

 既に以前のブログで紹介していますとおり、塩崎大臣は「方向としてはできる限りの共有はしないといけない」と答弁されているのですが、児童相談所はいまも警察との情報共有を図らないまま、児童相談所が関与しながら子どもを救えない事件があいかわらず続いています。塩崎大臣の答弁は下記のとおりです。是非ご覧ください。

http://www.thinkkids.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/2017.5.31shitugi.pdf

 この中で、塩崎大臣は、全国の児童相談所(の8割)が警察との情報共有に反対している理由として、

1警察が保護者、家族などに事情聴取を行うなどによって児童相談所と保護者等との関係に影響を及ぼして、その後の支援に支障が生じるおそれがある
2警察に相談内容を知られてしまうことに抵抗のある保護者、関係機関等が、通告、相談を控えてしまうおそれがある
3情報提供に係る事務量の増大に対応できない

という3点を挙げておられます(2017年5月31日衆議院厚生労働委員会)。

 上記3は論外です。よくこんなことを平気で言うなと呆れてしまいます。児童相談所は毎月通告のあった案件の概要をデータベースに入力しているところであり、それを一覧にして打ち出す、あるいはUSBに入力して提供するなどごく簡単な作業で情報提供はできるのです。ほとんど労力はかかりません。また、この点については、私どもが提案しているとおり、児童相談所と警察でネットワーク化し共通のデータベースを作り、それぞれが把握した虐待案件を当該データベースに入力することにすればば、直ちに情報共有できることになり、全く労力はかかりません。

 上記2.は、塩崎大臣ご自身が国会で答弁されている通り、虐待親が警察に知られることに抵抗のあるのは当然であり、そんな虐待親に配慮することなどありえないことです。「警察と情報共有して連携して対応することになっています」と虐待親に告げるだけで虐待の抑止に効果があることは確実です。子どもを守る立場に立つ限り、警察に知らせないことに合理的な理由がある場合というのがあるのか思いつきませんが、何か特別な事情があるのであれば、その事情を警察に説明し当面警察が対応しないことにすればいいのではないでしょうか。いずれにせよ、親の立場ではなく虐待されている子どもの立場に立って考えるべきであることは明らかです。

 上記1は、今でも生じている問題です。警察に寄せられる虐待案件の通報は全国で4割近くに上り、大都市では5割を超えており、今でも4割から5割の案件は「共有」されているのです。これらの案件につき、児童相談所と警察とで意見が食い違うことはありえます。組織が異なるのですからあって当然です。警察は児童相談所が危険な家庭にいる子どもをいつまでも一時保護しないことに不安に感じることはしょっちゅうですし、児童相談所は警察が事前の相談なしで刑事事件にすることに不満を持つことはあります。しかし、当然ですが、だからといって、そのことが、残りの案件につき情報共有しない理由にはなりません。ほんとうに児童相談所や厚労省がこのことが問題だというのなら、警察は虐待案件を取り扱ってはいけないことになってしまいます。児童相談所、警察のどちらか一方の方針が常に正しいわけではないのです。この問題は、両組織が情報共有し連携して活動していくことにより、信頼関係を構築し、相互の業務・役割を理解し、いかなる対応が子どもを守るために最善かということを共通に理解して取り組んでいくことによって解決していくべき問題です。それを一部で意見の相違があるから、それを克服する努力もせず、縦割りのままで、残りの案件も共有しない、すなわち連携しないなんて、子どもを守るべき組織のいうことでしょうか。自ら縦割りを脱し、連携して子どもたちを虐待から守りましょう、とどうして言わないのか。私どもが3年近く訴え続け、その間もこれだけ児童相談所が案件を抱え込み虐待死に至らしめる事件が続いても、殻にこもったままなんてありえません。こんな考えの組織に命を預けざるを得ない子どもたちのことを思うと、腹が立つというよりも悲しくなります。

 いずれにせよ、いずれの理由も、情報共有の上連携して子どもを守る活動を行うことで得られるメリット、すなわち、子どもたちを格段に守ることが出来るようになる、ということを打ち消すほどのものでないことは明らかです。
 何度も言っていますが、一つの機関だけで子どもを虐待から守ることなどできないのです。今も児童相談所が関与しながら子どもを救えない事件が続いているのですから、一刻も早く警察との情報共有の上連携して子どもを守る活動に取り組むことを強く求めますが、塩崎大臣ご在任中に決着をつけていただくことを期待しています。