ブログ97 三重県で児童相談所が保護していた児童の妹が殺害される事件が発生しました

1 本年(2017年)10月14日の朝日新聞の「いちから分かる」欄に、児童虐待に関する記事が掲載され、全国の警察が児童相談所に通告した子どもの数は今年上半期で3万人を超え、過去最多であるとし、「警察が現場で児童虐待の疑いがあると判断すれば児相に通告するし、疑いがなくても「通報があった」と児相や自治体に知らせることとしている。それぞれの機関が虐待の兆候を共有して、子どもを守ろうというねらいだ。情報が共有されずに子どもが虐待死する例があった反省から連携が強化された」と報じられています。
 きっかけとなった事件は昨年埼玉県狭山市で起こった羽月ちゃん(当時3歳)虐待死事件です。本事件は、警察に2回も虐待ではないかと110番が入り警察官が家庭に赴きながら虐待はないとして児童相談所にも市の虐待担当課にも通報しないままでいたところ、狭山市は乳幼児健診未受診で、保育園を退所させたことも把握していましたが、児童相談所、警察、狭山市はこれらの情報を共有せず、危険性を認識できず、みすみす羽月ちゃんを虐待死させてしまったという事件です。
 この事件を教訓に、警察は虐待であるとは判断できない場合でも児童相談所に通告することとしました。虐待している親が110番で駆け付けた警察官に対して素直に虐待を認めるわけもなく、「夫婦喧嘩です。すいませんでした」とごまかすことが通常です。そもそも一回家庭に出向いただけで虐待かどうか見抜けるはずもなく(これは児童相談所の職員も同様です)、警察官が虐待の疑いが持てない場合でも虐待の可能性はないとは決していえないのです。
 ですから、遅かりしとはいえ、警察が虐待の疑いがあるとは判断できない場合でも児相に通告することとしたことは、子どもを守るためには必要な対応です。言うまでもなくその目的は、児童相談所と市町村、警察の関係機関が情報を共有して、虐待の兆候を見逃さず、子どもを守ることにあります。そうすると、情報の提供は、警察から児童相談所に対する一方的な方向でなく、児童相談所から警察に対してももちろん必要です。しかしながら、ご承知のように、児童相談所は把握した虐待案件を警察に対してはほとんど情報提供しないことから(高知県を除く)、情報共有が実現していません。
 羽月ちゃん虐待死事件が起こった埼玉県は、私どもが幹部と直接面談し、要望書を提出して全件の情報共有を求めたのを受け、ようやく本年5月に警察と情報共有に関する協定を結びましたが、それでも埼玉県の児童相談所は警察に対して一部しか情報提供しようとしないありさまです。

http://www.thinkkids.jp/archives/1459

 是非、朝日新聞の「いちから分かる」欄では、この記事の続き、「しかし、児童相談所は警察に情報提供しようとしていないんだよ」ということも解説し、記事にしてほしいと思います。

2 昨年末、私どもは三重県を訪問し、県庁及び県警察の幹部と面談し、児童相談所と警察の全件情報共有と連携して子どもを虐待から守る活動を行ってほしい旨要望しました。それを受け、本年3月に県と県警の間で情報共有に関する協定が締結されたのですが、残念ながら、児童相談所から警察へ情報提供される案件はごく一部に限られたものとなっています。
 そうした中、今年の8月29日に、三重県四日市市のアパート駐車場で車の中から6歳のブラジル国籍のナガトシ・ビアンカ・アユミちゃんの遺体が発見されました。アユミちゃんとその母親と同居していた内縁の夫のペルー国籍の男が死体遺棄容疑で逮捕されています。男は8月18日に殴ったりけったりしたと供述しているとのことです。
 アユミちゃんは一つ上の姉と母親との3人暮らしでしたが、本年4月に鈴鹿市の市立小学校に入学します。この頃から、母親が加害者である男と同居するようになり、5月から休みがちとなったようです。母親は、アユミちゃんの姉を養育困難として児童相談所に相談し、児童相談所は姉を一時保護しました。学校には児童相談所から詳しい事情の説明はなかったとされています。6月に一家は四日市に引っ越し、アユミちゃんはしばらくは鈴鹿市の学校に通っていましたが、不登校となり、7月に母親がブラジル人学校に転校させると申し出があったことから、学校は直ちにアユミちゃんを除籍処分とし、除籍後は四日市市に任せた、とされています。しかし、四日市市が確認したところブラジル人学校に転校した形跡はなく、市教委が7月就学を促す案内書を送り、自宅も尋ねたが誰にも会えず、そのままにしていた、とされています。
 一方、児童相談所は姉について一時保護した以降、3回母親に面会し、アユミちゃんを「女友達に預けた」ときいていましたが、連絡先を確認するなどの対応はとっていませんでした。児童相談所は「母親の説明では育児放棄や虐待などのリスクは低いと判断し保護対象の対象外だった、連絡先は聞く必要はないと判断した」、家庭訪問時を含めアユミちゃんの姿を直接確認したことはない、とされています(朝日新聞デジタル2017年9月19日などから)。

3 詳しい状況はまだ不明ですが、折角、児童相談所がかかわりを持ちながら、なぜアユミちゃんを助けることができなかったのか、残念でなりません(除籍処分をすぐ行い、その後安否確認をしていない学校の対応も問題ですがここでは触れません)。
 アユミちゃんは不登校でいわゆる居所不明児童となるおそれもあったように思われますし、何より母親の養育環境の問題から姉を一時保護しているのですから、児童相談所はその妹であるアユミちゃんについても危険性があると判断できたはずです。
 そして、より詳しい状況を確認するためには、人手のない児童相談所では限界があるのですから、案件を抱え込まず、警察と情報共有の上連携して家庭訪問し、アユミちゃんの安否確認と母親への指導を丁寧に行っていれば、新たな同居人(加害者)が家庭に出入りしていることが分かったはずです。そうすると、かなり危険性があると判断できたはずですし、さらにアユミちゃんの安否確認を行えば、男がアユミちゃんに暴力を振るっていることが把握でき、アユミちゃんを一時保護する、あるいは男を逮捕する等適切な対応を行うことができたのではないか、アユミちゃんの命を助けることができたのではないか、とも思います。

 三重県が私どもの要望どおり、児童相談所と警察が全件の情報共有を行い、適切に連携して活動していれば、アユミちゃんは殺害されることはなかったのではないかという思いが捨てきれません。上記下線部の「母親の説明では育児放棄や虐待などのリスクは低いと判断し保護対象の対象外だった、連絡先は聞く必要はないと判断した」という児童相談所の判断は、児童相談所が知りながら虐待死を防げなかった150件もの事件(最近10年)のたびに聞かされるセリフです。虐待リスクを正確に判断することなど神ならぬ人間には誰にもできません。急速に虐待がエスカレートすることもあれば、同居人が現れ虐待が始まることもありますし、そもそも児童相談所も警察もすべての情報を把握できているわけではないのですから当然のことです。だからこそ警察は全件児童相談所に情報提供し、関係機関が連携して子どもを守ろうとしているのに、児童相談所は自らの判断を正しいと信じ、案件を抱え込んでは虐待死に至らしめているのです。
 三重県では、本事件を貴重な教訓として、児童相談所、市町村、警察との全件情報共有と連携して活動する取組みを行っていただくことを強く求めるものです。