ブログ140 札幌市詩梨ちゃん事件でのやりとり公表、大阪府警人身安全対策室の素晴らしい活動

1 札幌市詩梨ちゃん事件で、警察に「泣き声通報」がなされた際の、道警と児童相談所ととのやりとりが報じられています。警察がかなりの危機感を有していたことが分かります。

https://digital.asahi.com/articles/ASM7S6617M7SIIPE01V.html

 この時点で、札幌市はネグレクトの恐れも把握していたとされていますが、このような情報は警察には連絡されていたのでしょうか。全件共有を拒否している札幌市がどこまで警察に情報を提供していたのか不明ですが、警察が事前に児相の把握している情報を把握していれば、110番等で対応する警察はより適切な対応をすることができるのです。

2 昨日7月25日NHK大阪で「見逃すな 小さなSOS」と題する、大阪府警察本部の「人身安全対策室」の活動が放送されました。7分程度ですので、是非下記をクリックしてご覧ください(1週間程度で消えてしまいます是非お早めに)。

https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20190725/2000018167.html

 児童虐待、DV、ストーカー、家出、行方不明など子どもや女性の命の危険がある事案を24時間、365日、寄せられる110番等を一元的に受け、直ちに警察官が安全確認、保護、捜索等の活動に当たる部局で、専門的な知識・経験を有する警察官70人が所属しています。

 ある一日の夜間の取り扱い件数は、児童虐待が32件、DVが25件、行方不明が14件、ストーカーが3件とすさまじい数に上ります。夜が明けた後のミーティングで、責任者の方は「家出の背景を確認するように、虐待が隠れているかもしれない」と指示されていました。

 また、子どもが帰ってこないと夜間に母親から110番が入った案件を報道していましたが、直ちに児相の取り扱い歴を確認(全件共有を実施している大阪府の案件だと推測します)、取り扱い歴があったことから、虐待の疑いもあることを念頭に、付近を捜索し一時間ほどで公園で保護、母親から叱られたので家を出たと話し、虐待の跡がみえなかったことから、家に連れて帰るという活動でした。

 3ケ月で8000件、泣き声通報で虐待を発見し、保護するという活動も行ったとされています。責任者の方は、「泣き声通報であっても、迷子であっても虐待が隠されていないか調べて、対応します」と話されていました。

 素晴らしい活動です。虐待の通報は夜間に多く、夜間も含め24時間、このくらいの体制で、直ちに子どもの安否確認をできる機動力を有する警察以外の機関で、子どもを守ることなど到底不可能です。児童相談所は通報を受けても48時間以内に対応すればいいとされ(これがそもそも信じられない)、それすら守られておらず、多くの子どもたちをみすみす虐待死に至らしめています。

 これは児童相談所批判というよりも、そもそも警察のような夜間体制も訓練もない児童相談所に虐待対応を委ねるという無茶苦茶な制度設計をしている政府・国会の責任です。だからこそ、せめて、児童相談所は案件を抱え込むことなく、警察と連携して活動しなければならず、全件共有がその第一歩です。上記の家出事案でも明らかですが、110番等で寄せられる案件に対応するに際しては、これまで虐待で児相が対応していたかどうかを知ることは極めて重要です。警察がこれを把握できないままでは、虐待を見逃す、家庭の所在が分からないなど子どもをみすみす虐待死させてしまうことになってしまうのです(東京都葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件、埼玉県三郷市健太ちゃん虐待死事件など)。

 大阪府の児相は府警と全件共有していますが、大阪市と堺市はいまだ実現していません(ただし大阪市は情報システム整備後に実施するとの意向)。この番組を見たからには、大阪市・堺市はもちろん、東京都や千葉県、札幌市なども早急な実施の必要性を実感していただけると思います。

 また、「泣き声通報」についても、警察と多くの児相とで全く危機感が違い、対応も異なります。この放送でも報じられている通り、警察は泣き声通報であっても、命の危険があるかもしれないという前提でかなりの危機感をもって臨みます。札幌市詩梨ちゃん事件もそうですが、実際に泣き声通報の案件で虐待死に至った事件が多数起こっています。しかし、多くの児相では、「泣き声通報は大したことない」として軽視するところが少なくありません。詩梨ちゃん案件でも道警はかなり危機感をもって対応していましたが、札幌市の児童相談所は、

 「よくある『泣き声通報』と同じだと思った」と札幌市児相幹部は漏らした。 「昼夜問わず子供の泣き声が聞こえる」。4月5日に池田莉菜(りな)容疑者(21)宅の近隣住民から寄せられた通告。同児相への通告は3割が近隣住民からで、「子供の泣き声が聞こえる」などのいわゆる「泣き声通報」が大半という。泣き声通報は緊急性が低いというのが職員の認識。子育てに理解のない付近住民からのものが多く、虐待ではないケースがほとんど」と話す。

と報じられており(北海道新聞2019年6月9日)、泣き声通報に対する危機感のなさ、泣き声通報でどれだけ虐待死に至った事件があるのかすら知らない無知、子どもを心配して通報する住民への「迷惑なんだよ」と言わんばかりの対応、には愕然とします。他の児相でも同様の発言をしている人は少なくありません。そして、札幌市児相は道警の動向要請を断り、その後の安否確認もしませんでした。

 ただ、私は、札幌市児相が同行しなかったこと自体は批判する気はありません。余裕がないときはあるでしょうから、警察に委ねてもいいと思います。しかし、それは、児童相談所と警察が全件共有の上密接連携して活動できるようになることが前提です。どこに虐待されている子どもがいるかすら教えず、情報を抱え込んだままで、「うちは余裕がないからそっちで行ってくれ」では、警察も責任を持った対応ができないのです。全件共有し連携して活動するという態勢を構築し、信頼関係を確立した上で、お互いに得意な分野で力を発揮して、総合力で子どもを守ればいいのです。人手不足というのなら尚更でしょう。児相単独よりも、格段に子どもたちを守ることができることは確実です。しかし、現在は、札幌市、千葉県、東京都などは、そのような活動を拒否したままなのです。これでは、いつ同様の事件が起こっても不思議はありません。