ブログ184 埼玉県美里町喜空ちゃん虐待死事件を踏まえ面会拒否の場合は積極的な介入を

1 2021年1月20日、埼玉県美里町で、昨年8月ころ生後3ケ月の喜空ちゃん(四女)を低体重、低栄養状態になっていたにもかかわらず適切な医療措置を受けさせることなく放置し、9月11日に全身機能障害で死亡させたとして、両親が保護責任者遺棄致死罪で逮捕されるという事件が起こりました。あごの骨やろっ骨が折れていたとされています。
 東京都目黒区結愛ちゃん事件、千葉県野田市心愛さん事件、鹿児島県出水市璃愛来ちゃん事件、東京都大田区稀華(のあ)ちゃん事件などこれまでの多くの虐待死事件で、児童相談所や市町村が案件を知りながら警察等の他機関と情報共有もせず、あるいは要対協にも報告せず、連携もしないまま虐待死事件に至るケースでした。
 しかし、これまでの報道の限りでは、本事件は、市町村、児童相談所、警察が案件を共有し、要対協にも登録していた案件で、町はそれなりに危機感を持ち対応していたようにも見えます。それでも虐待死は防げませんでした。

2 報道によると、本件では次のような虐待の危険な兆候が見られていました。
① 両親は町職員の訪問を嫌がり父親が町職員に「支援はいらない・バカにしているのか」と声を荒げていた
② 昨年4月以降は新型コロナの感染拡大を理由に面会を拒否、喜空ちゃんの5月の出産後も職員の自宅訪問を拒否→町は受診先の病院との連携や親族を通じた安否確認に努めた
③ 8月23日には近所の住民から「泣き声がうるさい」と通報があり翌日に警察官が家庭訪問→4人の子どもの負傷は確認されなかった、町と児童相談所には情報提供
④ 死亡確認の2日前の乳幼児健診に受診しなかつたため町は母親の親族を通じて接触を図った→子どもの安否は確認できなかった

などです。また、子どもが3人(喜空ちゃんは四女なのであと一人かもしかしたら他の子どもはどこにいるのか)で両親は二人とも無職、生活保護を受けているということで経済的には苦しい状況だったと思われます。

 本件で最も警戒すべき兆候は面会拒否です(乳幼児健診拒否は死亡の直前でした)。もちろん面会拒否は虐待の危険な兆候で、目黒区結愛ちゃん事件では東京都の児童相談所は母親から面会を拒否されると「親との信頼関係」を理由にその後家庭訪問もせず、放置し虐待死に至らしめました。これ以外でも、群馬県玉村町優将ちゃん虐待死事件、千葉県柏市蒼志ちゃん虐待死事件、大阪府岸和田市中学生餓死寸前事件、福岡市18年間女性監禁事件等児童相談所や市町村は、親から「面会拒否」されるとそのまま放置し虐待死等に至った事件が多数あります。
 報道によりますと、今回は、美里町は放置したわけではなく、病院や親族を通じての安否確認に努めていたようで、東京都のように何もしなかったのではありません。その間、警察も家庭訪問しています。それでも、虐待死は防げませんでした。町も児童相談所も警察も虐待死させられるとは思ってなかったわけです。
 しかし、どの程度の虐待の事実を把握していたかによりますが、面会拒否している家庭につき、近隣住民から「子どもの泣き声がする」という通報があり警察が家庭訪問しているわけですから、その時点で虐待ではないと判断し、児童相談所と町には情報提供したとしても、それで終わらせることなく、この時点で要対協実務者会議で、虐待リスクの評価を上げて、美里町だけに対応させるのではなく、児童相談所、警察等多くの機関が連携して面会を要請する、それで拒否されたら一時保護するというぐらいの対応が必要であったと思わざるを得ません(ただしこれについては、それまでに虐待の事実がどの程度認められたのか、どの程度関係機関が対応していたのかは不明ですので、推測に基づくものであることをお断りしておきます)。

3 本件における以上のような状況、対応、及び結愛ちゃん事件等面会拒否しそのまま虐待死等に至った多く事件の教訓も踏まえると、虐待案件において親が面会拒否、家庭訪問拒否をする場合の虐待リスクの危険度評価を上げ、原則として短期間でも一時保護する、あるいは、保護しない場合には、最低限、関係機関が連携して頻繁に家庭訪問をし、子どもの安全確認を頻繁に行い、親に家庭訪問を受け入れてもらうよう説得する、それでも虐待がおさまらない、面会拒否を続ける場合には一時保護する、あるいは犯罪に当たる虐待をしていれば親を逮捕するなどし、親と子どもを物理的に分離し、子どもの安全を確保するという取組が必要です。
 虐待死事件では、「専門家」がアプリオリに虐待対応はこうあるべきーたとえば結愛ちゃん事件に見られた東京都の児童相談所の対応のような「虐待親との信頼関係は重要」だから親から面会拒否されてもそのままでいい、親が嫌がるなら子どもの安全確認もしなくていい、一時保護なんてとんでもないなどーという思い込みやそれまでのやり方を漫然と続けるのではなく、実際に生起した虐待死等重篤な事件を貴重な教訓として、救えなかった原因を分析し、再発防止のためにそれを踏まえた対応策を日々ベストなものにしていくしかありません。

 本事件は、関係機関の情報共有は当然のこととして、虐待リスクのより適正な評価が必要、具体的には、親が面会拒否している場合の虐待リスクをより厳しく評価し、積極的な対応が必要であることを明らかにした事件といえます。
 全国の市町村、児童相談所、警察等の関係機関は、喜空ちゃんの死を無にすることなく、本事件を貴重な教訓として、上記の方針を取ることを求めます。併せて厚労省、警察庁には連名でそのような通知を全国の自治体に出すことを強く求めます。わが国では、このような取組がほとんどないため、上記のように同じような事件が古くからいつまでも繰り返されているのです。

4 なお、現時点で報道されておらず、私も全く把握しておりませんが、本件で児童相談所は一時保護の検討をしたのでしょうか、また、美里町や警察その他の機関は、一時保護の必要性について児童相談所に訴えていたという事実があるのか気になるところです。これまで、市町村が一時保護するよう児童相談所に働きかけたが、児童相談所がそれに応じず、虐待死に至るという事件が千葉県柏市蒼志ちゃん虐待死事件等見受けられていますし、私が出席した要対協実務者会議では、市町村の危機感より児童相談所の危機感が薄く、一時保護に消極と言うのはよくみられる光景です。これには児童相談所が業務負担を避けたいという思惑もあると思われます。
 本事件を離れての課題ですが、市町村に一時保護権を付与することも検討すべき課題と考えます。私が虐待再発防止委員会の委員を務めた千葉県野田市では、昨年、国に対して市町村に一時保護する権限を付与するよう国に要望書を提出しており(添付参照)、市町村の中には子どもを守るためには市町村にも一時保護権を与えることが必要と考えているところが多いものと思われますし、児童相談所の業務負担の軽減にも資することになると考えます。