ブログ5・すぐに対策を!! 居所不明児童問題

第1 2013年4月23日、神奈川県警察が、昨年7月に第1子である長女(当時6歳)を横浜市磯子区の雑木林に遺棄した容疑で母親と元交際相手の男を逮捕しました。
本事件は、長女が昨年4月初め小学校1年生の年齢に達したにもかかわらず、当時住民票があった千葉県松戸市の小学校に入学せず、その後まもなく転入した神奈川県秦野市でも就学していなかった、居所不明児童の事案です。
主な経緯は次の通りです(事実関係が異なることが確認できた場合には適宜修正いたします)。

2012年 4月 長女小学校1年生1年生になるも、松戸市の小学校に登校せず。
4月12日 松戸市から神奈川県秦野市に住民票を移動。松戸市から秦野市に対して未就学の情報提供はなかった。
7月3日 横浜市の南警察署に鳴き声泣き声通報(110番)があり、警察が訪問。第2子(次女)が屋外で裸足で泣いていたため、第2子について横浜市中央児童相談所に通告(5日)。この時点では長女の安全を確認。
7月(時期不明) 秦野市が長女の未就学を知る。秦野市教育委員会が就学させるよう督促の手紙を出すが、所在宛所不明として返送されてくる。住民票記載住所には無関係の別人が居住。
7月13日 横浜市児相が母親と第2子の居候先を訪問。母親は長女の所在について「一緒に住んでいる男性と就学のために必要なものを買いに行っている」と説明し、長女とは会えず。
10月 横浜市における母親と第2子の居住実態が認められなくなった。
2013年 1月12日 船橋市内の病院で第3子を飛び込み出産。
1月21日 母親が第3子を連れて秦野市役所に来初し、出生届提出。
1月24日 横浜市児相が茨城県内の母親の実家を訪問。親族から「長女とはもう1年以上会っていない」との情報を得る。
1月(時期不明) 横浜市児相が長女の安否を確認できないことについて南警察に相談(その後の南警察署の対応については現時点では未確認)。
2月(時期不明) 秦野市が秦野警察署に相談。行方不明者として届け出(28日)

第2 以上について、次の問題点を指摘することができます。

○松戸市から秦野市に未就学の事実が通報されていない。
○秦野市教育委員会が未就学の事実を把握した後も警察に直ちに連絡していない。
○横浜市児相が警察から次女について虐待の通報を受けた際、未就学の事実を把握していなかった。その後、安否確認を何回試みたかは現時点では確認できていないが、長女の安否確認ができなかったにもかかわらず、半年後の2013年1月になって南警察署に長女の所在確認ができないと連絡相談した(横浜市児相から相談を受けた南警察署の対応は現時点では不明)。
○住民票記載の住所に居住していない親子の所在を確認するのに、警察でも2、3ケ月もかかる。
そこで、早急に、当面の対策として次の改善策をとることが必要です。

 

1 就学年齢に達しているにもかかわらず未就学となっている児童を把握した教育委員会は、住民届担当課にその旨を伝え、住民票の移動があった際に、担当課は転出  先の住民届担当課及び教育委員会に通報することとする。

2 未就学児童を把握した場合には、教育委員会は可能な調査をしても所在確認できない場合には、直ちに警察に連絡し、発見・保護活動を要請する。

3 児童相談所は親が容易には信用できない弁明をして子どもの安否確認ができない場合、所在不明となった場合には、直ちに警察に連絡し、発見・保護活動を要請する。市区町村は乳幼児健診未受診の子どもについて、家庭訪問等を繰り返しても所在や安否を確認できない場合は直ちに警察に連絡する。

4 警察は、上記2、3に基づき連絡を受け子どもの安否が確認できない場合あるいは虐待事案として把握していた子どもが所在不明になった場合には、住民票の移動の有無、関係先調査等の上、全国警察に発見・保護の依頼を行うなどし、発見・保護活動を積極的に行う。

また、警察は、上記2、3に基づき連絡を受け子どもの安全がとりあえず確認できた場合あるいは虐待事案を自ら把握し児童相談所へ通告した場合について、その後も子どもが虐待を受けていないか、転居していないか等について巡回連絡等により確認し、継続的に子どもの安否を確認するとともに、保護者から困りごと相談を受けるなどして生活の支援を通じ再虐待の防止に努める。

なお、所在が不明となった子どもを発見・保護するために、捜査活動によることができない場合は捜査関係事項照会、捜索差押え、架電先調査等ができず、あるいは捜査活動によることができる場合でも携帯電話による居場所探索は大きな制約があるなど有効な発見・保護方法がないことから、有効な調査権限を警察等の関係機関に付与する必要があります(このことについては前ブログ参照)。

上記1についてですが、自治体が未就学児童を把握している場合には、その児童が他の自治体に転出した場合には、元の自治体が転出先の自治体に住民票の移動とともに未就学児童であることを通知すれば、転出先の自治体、教育委員会は転入直後から保護者に就学させるよう働きかけることができ、子どもの安否確認も容易で、虐待の防止につながることになります。今回はそのような措置が取られていなかったため、転出先の秦野市の対応が遅れてしまったことが悔やまれます。現在どのくらいの自治体がこのような措置を講じているかは不明ですが、すべての自治体でかかる取り扱いを行う必要があります。

上記2、3、4については、児童相談所、市町村、保健所、学校・教育委員会、警察等子ども虐待にかかわる機関に関する問題ですが、本件をはじめ虐待事案への対応について、極めて問題なのは、子どもの安否確認ができない場合でも、関係機関が平然としているようにみえることです。秦野市は、長女の安否が確認できないことを知ってからは、懸命に母親とコンタクトをとろうとしていたように思いますし、警察は捜査として着手してからは全力で対応していたと思いますが、それまでの対応はどうだったのか、検証が必要ですし、それ以外の機関は、子どもの安否確認が取れないことを知りながらさほど懸命の対応をしていたようには見えません。
未就学、乳幼児健診未受診等で安否が不明な子どもがいることを把握した場合には、学校、教育委員会、市区町村、児童相談所、保健所は、漫然とそれを放置するのではなく、家庭訪問、呼び出し、判明している関係先調査をしても安否が確認できない場合には、直ちに警察に通報しなければなりません。
警察はそれを受けた場合には、動かないなどというのは論外で、通常の家出人の捜索のようなとりあえずの手配ではなく、関係先、立ち回り先の調査、最重要の全国手配をして、子どもの安否確認、保護に当たらなければならず、可能な場合には捜査として取り組む必要があります。また、110番通報などにより自ら把握した事案について児童相談所に虐待通告した後も再虐待が行われていないか、所在不明となっていないかを継続的に確認しなければなりません。虐待通告しても、児童相談所が一時保護措置をとるあるいは児童養護施設に入所する子どもはごく一部であり、多くは家庭でこれまでどおり親と暮らしているのですから、安全になったわけでは全くなく、再虐待が行われる危険性は高いのです。
さらに、居所不明児童の場合は、全国のどこに転居しているか分かりませんので、子どもを抱えた親が立ち寄ることが多いと思われる全国の市役所、保健所、福祉事務所、病院等に手配をし、立ち寄った場合には警察に連絡し、子どもの保護に当たることができるような全国的なシステムの整備が必要です。具体的には、児童相談所に通告された子ども・保護者、居所不明児童・保護者、乳幼児健診未受診の子ども・受診させない保護者等について全国登録データベースを整備して、虐待事案として把握していた子どもが所在不明になった場合に、全国の市役所、児童相談所、警察、医療機関等関係機関がチェックできることとすることにより、子どもの安否を確認することができるシステムを整備することです。
以上のほか、前ブログで述べているとおり、居所不明児童その他の安否が確認できない子どもの発見・保護のための調査権限(主なものとして架電先調査、携帯電話による居場所探索等)を警察その他の機関に付与し、全力で安否が確認できない子どもを発見・保護する活動を行うことを警察等の関係機関に義務付ける法律の整備が必要です。

児童相談所、市町村、保健所、学校、教育委員会は、居所不明児童、安否の確認ができていない子どもについて把握しながら、「2、3回行きましたが会えないんですよ」「どこにいるか確認できないんですよ」「2、3回電話で督促しましたが乳幼児健診に来ないんですよね」「うちのところでは安否確認できない子どもが数十人はいますね」などとのんびりしている場合ではないのです。家庭訪問、呼び出し、判明している関係先調査をしても安否が確認できない場合には、直ちに警察に通報しなければなりません。
それを受け、警察は、直ちに、子どもの命が危険にさらされていることを念頭に、発見・保護活動に全力で当たらなければなりません。警察以外の組織が所在不明児童の調査などできるわけがないのです。「所在不明の子どもを探すのは児相や市町村の仕事。子どもが殺されていたら親を逮捕するのが警察の仕事」「児相に通告したら警察の仕事は終わり」などととんでもない考えを持っている警察幹部、警察官が警察庁にも都道府県警察にも少なくないのではと危惧しています。子どもの命を守り、救うことが警察の最大の仕事なのだという意識を強く持たなければなりません。そして、そのような活動を行うための法制度の整備も必要です。
関係機関の意識の変革と具体的な行動を強く求めます。