ブログ12 葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件、横浜市あいりちゃん虐待死事件を繰り返さないために

1 本年2014年1月の葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件、昨年2013年5月に母親等が逮捕された横浜市あいりちゃん虐待死事件は、いずれも、児童相談所と警察の対応が適切であれば、虐待死を防ぐことができた事件でした。(横浜市あいりちゃん虐待死事件は、未就学児であったあいりちゃんの調査を怠った松戸市や秦野市の対応も大いに問題があるものでしたが、それについてはここでは省きます。)
 愛羅ちゃん事件では、児童相談所が見守りの対象とし、警察が110番通報で臨場しながら、虐待死を防げませんでした。あいりちゃん事件では、警察が110番通報で臨場し、虐待通告を児童相談所にしながら、児童相談所の対応が遅れ、警察も再度安否確認することもないまま、虐待を把握したわずか2週間あまりで虐待死させられてしまいました。
 このような事案を防ぐためには、根本的には、警察に一時保護の権限(というよりも義務)を与え、110番通報により臨場する機会の多い警察が虐待の疑いありと判断すれば子どもを一時保護し、その後速やかに児童相談所ないしは家庭裁判所に引き渡すという制度とすることが不可欠です。ところが、イギリス等では当然とされている制度がわが国にはありません。
 そのため、現行では、110番通報で臨場する警察が虐待の疑いありと認めた場合には児童相談所に通告することになるわけですが、あいりちゃん事件では、児童相談所の対応が遅れ、警察も再度安否確認をしなかったため、むざむざ殺されてしまったのです。
 愛羅ちゃん事件では、臨場した警察官が40か所もあつたとされるからだのあざを確認できず、「夫婦げんか」という弁明をうのみにして、虐待と判断せず、児童相談所に通告せず、その5日後に虐待死させられてしまいました。警察が一時保護する権限(というよりも義務)が付与されていれば、保護者に衣服の下を見せるように求め、それが拒否されれば虐待の疑いありとして、一時保護したことでしょう。一時保護する権限が警察にはないため、臨場した警察官が虐待の疑いの調査を躊躇することはありうることだと思います。
 現行制度では、警察には一時保護権限はありませんから、現場に臨場した警察が虐待の疑いありと判断すれば児童相談所に通告するしかないのですが、警察から児童相談所への虐待通告件数は、2012年には16,387人に上っています。これほどの膨大な件数の多くを警察は一回の現場臨場にとどめ、後は児童相談所に丸投げしているのです。これでは、児童相談所の対応も不十分にならざるを得ませんし、臨場した警察官の調査も一時保護の権限がないため不十分なものになりがちです。
 体制的にも能力的にも、虐待の有無を調査し、親を説得し、あるいは暴力を振るう親の抵抗を排してでも子どもを保護するためには、児童相談所よりも警察の方が適任であることは明らかなのです。さらにいえば24時間駆けつけることが警察にはできるのです。
 法改正をして警察が一時保護することができる、というよりも、警察は一時保護して子どもの命を守らなればならないという制度としたならば、愛羅ちゃん事件、あいりちゃん事件のような事案で、警察が適切に対応することにより、子どもの命が救える可能性が高まるのです。児童相談所任せにしていては、虐待死させられる子どもは一向に減らないのです。警察は今は法律上の権限がないことから、腰を引いた対応をしていますが、警察は法律で権限・義務が付与された場合には、それまでとは比較にならないほどの適切な対応をします。ストーカー対策にしてもストーカー規制法が制定されるまでは、極めて不適切な対応も少なくなかったですが、法律が制定され権限と義務が付与されて以降は見違えるほどの対応をしています。もちろん中には不適切な対応もいまだ見受けられ、改善に向けた取組みは常に必要ですが、法律制定前とは比べ物にならないほど格段に優れた対応をしています。警察は法律上の権限と義務が与えられれば、子どもや女性の命を守るためにすぐれた取組ができるのです。これは警察庁に23年間勤務した私の経験から確信していることです。

2 上記法改正が実現するまでの間でも、警察がその有する体制、能力を十分に活かし、虐待されている子どもの命を守る取組を実施する必要があります。
具体的には、「葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件を繰り返さないために(1)(2)」で述べたとおりですが、
  警察は、110番通報により虐待が疑われる家庭に臨場した場合には、保護者の「夫婦げんかである」などの弁明に騙されることなく、子どもが元気でいることを目視で確認し、虐待のあざ等がないかどうかを衣服の下も見せるよう要請し、あざ等がないことを確認すること。あざ等があった場合はもちろんのこと、保護者が子どもを警察官に会わせようとしない場合、衣服の下を見せようとしない場合には、虐待の疑いありとして、児童相談所に直ちに通告する。
  児童相談所が一時保護しない場合にも、警察は、当該家庭に定期的に巡回連絡を実施し、子どもの安全を確認するとともに、保護者に子育てに困難な環境がある場合には市町村の福祉部局等との橋渡しをするなどし、それを改善するための援助を実施する。
  警察と児童相談所は互いに把握している虐待の疑いのある家庭の情報を相互に連絡する。

という取組みを開始することが是非とも必要です。
 
 警察は、2013年10月の三鷹市女子高生ストーカー殺人事件を契機として、ストーカー・DV対策に本腰を入れています。警察庁から同年12月6日に「人身安全関連事案に対処するための体制の整備について」という通達が発出され、それを受け、警視庁では同月13日に「ストーカー・DV総合対策本部」を副総監直轄で80人体制で発足させました。できるだけ早期に加害者を逮捕し、被害女性を守るという方針で、中には、相談後約8時間後に加害者を逮捕したケースもあるということです。
生命・身体の危険にさらされている女性を守る素晴らしい取組みです。そして、生命・身体の危険にさらされているということは、虐待にさらされている子どもも同様なのです。というよりも、逃げることができ、警察や裁判所に助けを求めることもでき、何よりも親や親しい人、NPO等に相談することができるストーカー被害者に比して、虐待されている子どもは、乳幼児は特にそうですが、家庭という密室で、逃げることも助けを求めることもできず、本来守ってくれるはずの親からなぶり殺しに遭う危険に常時直面しているのです。虐待死させられた子どもの数とストーカーにより殺害された被害者の数を比べると圧倒的に虐待死させられた子どもの数が多いのが実情です。より生命の危険が高く、より警察の保護が必要なのはどちらであるかは明らかです。そうであるならば、ストーカー対策として取り組みはじめた素晴らしい取組みを、今現在虐待を受け、命の危険にさらされている多くの子どもたちを守ることにこそ取り組んでほしいと強く希望します。