ブログ14 ベビーシッター幼児死体遺棄事件を踏まえ直ちに必要な対策を(その2)

1. 2014年3月17日、埼玉県富士見市のマンション一室で横浜市磯子区の2歳の男児の遺体が見つかり、インターネットの仲介サイトを利用して男児とその弟を母親から預かった自称保育士の男が死体遺棄容疑で逮捕された事件は、その後、男は、弟に対する保護責任者遺棄致傷容疑で再逮捕され、さらに、4月28日、以前預かった別の子どもの裸を撮影して保存したとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)容疑で再逮捕されました(2014年4月28日産経新聞その他)。

2. 私は前回のブログで(http://www.thinkkids.jp/archives/735)、「今回の事件で明らかになったことは、このような形で子どもが死んでしまうということのみならず、子どもを誘拐し殺害するあるいは性虐待を加え、児童ポルノを製造しようなどと考える者が、これらの仲介サイトを利用することにより、容易に子どもを殺害・虐待・わいせつ行為等ができるということです。もしかしたら、既にそのような者がベビーシッターと称して登録しているかもしれないのです。」と書きましたが、残念ながら、この男自身がペドフィリア(児童性虐待者)であることが明らかになりました。
 同じく前回のブログで、「厳格な本人確認をせず、偽名での登録でないかどうかも調べようとせず、さらには能力があり信用できる経歴があるかどうかなどの確認もせず、過去にトラブルがあった者も排除せず、乳幼児を預けるベビーシッターを仲介する、しかも、トラブルについては責任は負わない、というサイトは、今回明らかになったように、また、子どもに対する性犯罪者等に利用されるおそれもあることから、子どもにとり危険極まりないものであって、提供されるべきものでないと考えます。」と書きましたが、この男以外にも既に多数のペドフィリアがベビーシッターと称してこのようなサイトを利用して、既に少なからぬ数の子どもに性虐待を加えている可能性がかなり高いことは否定できず、べビーシッターの利用の安全対策という以前に、インターネット上でベビーシッターなどと称して子どもを自己の支配下に置き子どもに性虐待を加え、あるいは子どもを誘拐・殺害しようとする者にその機会を与えないための法規制が直ちに必要です。
 考えられる法規制は、既に私が提唱している「闇サイト禁止法」と同様のものが一案として考えられます(http://www.law-goto.com/0302/011/) 。すなわち、

◯インターネット上でのベビーシッターを利用したい親とベビーシッターを仲介するサイト・掲示板の開設・運営の原則禁止
◯一般の掲示板の管理者は、自己の掲示板にベビーシッターその他子どもを預かる業務の請負を内容とする書き込みがなされていることを知ったときは、削除するよう努める
◯ベビーシッターその他子どもを預かる業務を行っている者は、ベビーシッターとして使用している者の氏名その他厚生労働省に定められた事項を届け出なければならないこととする

というものです。

3. 現在のインターネットを利用したベビーシッターの仲介サイトの運営者に悪意があるとは考えていませんが、これらのサイトの多くでは、前記のとおり登録するベビーシッターの能力や信用力はもちろん、氏名、住所、経歴、資格等の厳格な本人確認を行っておらず、かつ、サイトにベビーシッターとして登録する者の少なからぬ者が偽名で登録している可能性のあることからすると、かかるサイトを利用して子どもに性虐待を加え、殺害・誘拐しようとする者にその機会を与えていることは今回の事件で既に明らかになっており、これまでどおりの形で提供されることは子どもの命を守るという観点からは許されないと考えます。
 また、子どもの安全のためには、今回の被疑者のような児童性虐待者、過去に問題を起こした者その他の子どもに危害を及ぼすおそれのある者を紹介するベビーシッターとして登録することがないようにしなければならないことは言うまでもありませんが、そのような制度を前提とすると、国や自治体の関与なく民間のインターネット仲介サイトでそのような排除システムその他の子どもの安全を確保するための対策を実施することは極めて困難であると考えます(制度的には、児童性虐待者や犯罪者、当該サイトを利用したか否かに関らず過去に利用者の信頼を損ねる行為をした者その他の子どもに危害を及ぼすおそれのある者を登録から排除するシステム等を恒常的に構築・運営する能力と体制のあるところであれば認めてもいいのかもしれませんが、現在のところそのようなことが可能な事業者があることは承知していません。もし可能な事業者があれば、審査の上例外的に認めることはありうるかもしれません。)
 なお、インターネット上での仲介ではなく、現実にベビーシッターを派遣する業務を行っている事業者については、ベビーシッターとして使用している者についてある程度把握しているものと考えられますが、児童性虐待者でないかどうかの確認はできていないことから、厚生労働省に必要な事項を届け出させることにより、とりあえず同省が実態を把握することができるようにする必要があると考えます(「とりあえず」と記したのは、下記記載のとおり、ベビーシッターを派遣する事業者の業務の適正化については別の法律による規制が必要であり、それまでの暫定的な対策に過ぎないという趣旨です。)。

4. このような法規制により、これまでインターネット仲介サイトを利用してきた親には不便になることは確かですが、インターネット仲介サイトを利用することは子どもをこのような危険にさらすことになることが明らかになった以上、やむを得ない規制であり、国や自治体が子どもの安全を大前提とし、切実なニーズにこたえる仕組みを早急に整備することが求められます。
 また、上記のとおり、これらの規制は、ベビーシッター利用の安全対策というよりも、インターネットを利用して、ベビーシッターと称して子どもを自己の支配下に置き、性虐待、殺人その他の子どもに対する犯罪が行われることを防止するためのものであり、全般的なベビーシッターの利用の安全対策―ベビーシッターからの児童性虐待者、過去に問題を起こした者の排除等子どもの安全確保のための施策その他のベビーシッターを派遣する事業者の業務の適正化のための施策―はこれとは別に、早急に法整備がなされなければなりません。現行法では個人がベビーシッターを行うのに何の規制もありませんから、法規制がなされないままでは、本事件の被疑者は釈放されれば、有罪が確定したとしても、すぐにでも、ベビーシッターとして仲介サイトに登録して同じようなことができることになるのです。

5. なお、保育士は、禁固以上の刑に処せられ2年以内の者、児童福祉法、児童買春・児童ポルノ禁止法等に違反して罰金の刑に処せられ2年以内の者等が欠格事由とされており(児童福祉法18条の5、同法施行令4条)、これからの法整備に当たってはベビーシッターについても最低限これらの者を排除する法制度としなければならないと考えますが、現行の保育士の欠格事由も甘すぎると考えます。
 たとえば子どもに対する脅迫や暴行、傷害の罪で有罪判決を受けた者でも罰金の刑に処せられた者や公然わいせつ、わいせつ物頒布、迷惑行為防止条例(痴漢)の罪を犯して罰金に処せられた者は欠格事由に該当しませんし(起訴猶予処分ではもちろん該当しません)、子どもに対する強制わいせつや強姦を犯して懲役刑に処せられても刑期が終了した後2年たてば保育士になってもいいというのは、子どもの安全を軽視したものと言わざるを得ません。保育士、ベビーシッター、それと教員を含めて(教員に至っては欠格事由は禁固以上に処せられた者と極めて限定されています(学校教育法9条))、子どもと日常的に接する業務に就く者については欠格事由をより厳しくするべきと考えます。

6. インターネット仲介サイトをこのまま放置すれば、さらに子どもの被害者が出ることが懸念されます。というよりも既に隠れた被害者がいることが容易に想像できます。インターネットを利用してベビーシッターと称して子どもを自己の支配下に置き、性虐待、殺人・誘拐その他の子どもに対する犯罪が行われることを防止するための法規制は、全般的なベビーシッターの安全対策全般の法規制とは切り離して、直ちに、今国会で行うことが立法府・政府の責務であると考えます。