ブログ18 児童ポルノの単純所持処罰を内容とする改正児童ポルノ禁止法が成立しました

 2014年6月18日、児童ポルノの単純所持処罰を内容とする児童ポルノ禁止法の改正が、共産党を除く各党の賛成で成立しました。
 1999年に児童ポルノ法が制定され、次の法改正の目標は単純所持の禁止と定め、当時は私はまだ警察庁にいましたが、ストップ子ども買春の会、ユニセフと運動をはじめて15年。よもやこれほどの時間と労力がかかるとは夢にも思いませんでしたが、ようやく児童ポルノの単純所持の処罰が実現しました。
 もっと早く実現していれば、強姦され、児童ポルノの被写体とされ、そのあげく、顔をさらされた画像がインターネットにアップされて、耐えがたい精神的苦痛に苦しんでいる子ども(既に大人になっている女性もかなりの数になると思います)が、どれほど少なくなっていたかと思うと、15年もの年月をかけてしまつた立法府、特に民主党の責任を指摘せざるを得ません。

 今国会でようやく民主党は賛成に回りましたが(賛成する条件なのか漫画・アニメの規制検討条項の削除など様々な後退がありました)、これまで一貫して民主党は反対し続けてきました。2009年6月、民主党は単純所持を禁止しない法改正案を国会に提出しました。その際枝野幸男議員は単純所持を処罰すべきでないとして法務委員会でその理由、論拠を主張しました。民主党が政権をとっていた2011年8月には、単純所持を禁止しない上に単純所持を既に禁止している自治体の条例を無効とするという、どこまで児童性虐待者を喜ばせたいのか理解に苦しむ、しかも、地方自治を無視する前代未聞の内容の法案を国会に提出しています。 
 自民党と公明党は早くから賛成でしたから、民主党さえ賛成すればいつでも成立したのです。ですから、私は弁護士になってから、民主党の集まりに単純所持禁止の必要性を訴えにいきましたが、民主党の議員からは「表現の自由はどうなる」とか「家の庭に児童ポルノを投げ込まれたら警察が逮捕するだろう」などの意見が出されるだけで、被写体とされた子どもの著しい人権侵害であるとの意見に誰も理解を示さず、呆れるばかりでした。また、法改正の要望書を携え、他の弁護士とともに、民主党の担当の副幹事長に直接要望しましたが、受け取っときます、というだけで全く無視されてきました。
 今回、なぜ民主党が賛成に回ったのか、今回各党の議員で構成された実務者会議のメンバーの階猛議員らのご努力があったのではと推察しますが、こうした一部の議員を除いた枝野議員をはじめとする民主党の議員は、これまで長い間反対し続け、膨大な数の被害者の子どもたちの苦しみを減らすことになる法改正に反対しその実現を拒んできたことにつき、その不明を恥じるべきですし、被害者の子どもたちに(既に大人になっている方も含めて)謝罪の意思を表明するべきことが求められるのではないでしょうか。

 このことは日弁権も同様です。会長声明を出すなどしてずっと反対し続けてきましたが、特に理解に苦しむのは、日弁連内の「子どもの権利委員会」の反対です。法案審議の直前も「日弁連子どもの権利委員会副委員長の川村百合弁護士は「警察が不当逮捕する危険性がある・・」などと反対していました(2014年5月19日毎日新聞)。被写体とされた子どもの耐えがたい苦しみを容認しながら、何が「子どもの権利委員会」か。この委員会のメンバーの中には、子ども虐待事案の刑事事件化が虐待された子どもの心的外傷を癒すきっかけとなりうると警察の捜査の意義を評価している方もいますし(同委員会「子どもの虐待防止・法的実務マニュアル(第4版)」)、きっと法改正に賛成の方も少なくないと思うのですが、なんでこうなるのか。子どもの権利のために活動するとしながら、どうして子どもの耐えがたい苦しみを軽減する法改正に反対できるのか、そのことを子どもたちにどう説明するのか、不思議でなりません。子どもの権利委員会と名乗って、子どもたちの信頼を得て活動したいと思うのであれば、上記の民主党の多くの議員と同様の対応が求められるのではないでしょうか。

 私は、今国会での衆議院法務委員会、参議院法務委員会ともその質疑の傍聴に行きました。今回の改正では単純所持の禁止の罰則の適用は1年後からとされているのですが、6月4日の衆議院法務委員会で、枝野議員は、規制される前に児童ポルノを購入した当時は自己の性的好奇心を満たす目的であったが、罰則が適用される時期の後はそのような目的がなくなっている場合には犯罪成立はしないということでいいですね、とか、規制される前に自己の性的好奇心を満たす目的で買ったが、今は家の中のどこにあるかも分からないような状態で、今は自己の性的好奇心を満たす目的がなくなっている場合には家探し(やさがし)してまで探すことは求められないということでいいですね、という趣旨の、児童ポルノを楽しみ、子どもに耐えがたい精神的苦痛を与えていた大人を守ろうとするような、結果としてそんな大人に罪を逃れさせる知恵を与えかねないような質問をし、法務省などにその旨答えさせていました。
 被写体とされた子どもたちのことを考えれば、少しでも子どもたちを安心させようという立場にたてば、そして国会議員であるならば、「罰則適用までの1年間の間に、買った覚えのある人は家探ししてでも児童ポルノは捨てましょう。」とか「政府はそれを周知徹底するために大々的に広報すべきと思うがどうか」と言うべきでしょう
 私には、枝野議員の質問には、苦しんでいる児童ポルノの被害者をいかに助けるのか、いかにケアしていくのか、という意識はほとんど感じられず、専ら、児童ポルノを楽しんできた大人にただただ配慮し、守ろうとしている、そういう姿勢を感じました。
 これに対し、公明党の佐々木さやか議員は、6月17日の参議院法務委員会で、「児童ポルノを廃棄することが望ましいのであり、広く所持自体の違法性、(みだりに児童ポルノを所持することは許されないという)3条の2の趣旨を周知啓発していくことが重要ではないか」という趣旨の質問をされ、発議者である遠山議員から「1年間の罰則の猶予期間を設けた趣旨はその1年間に法施行前に所持に至った児童ポルノを適切に廃棄してもらいたいということである」、法務大臣から「児童ポルノを撲滅する観点から関係省庁と連携してそのことを周知啓発していく」という趣旨の答弁がありました。さらに、(枝野議員が上記のとおり確認していた)「当初は自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持していたが、罰則適用の時点までにその目的がなくなった場合には罰則の適用はないとすると、不当な言い逃れがなされるのではないか。」と質問されていました。
 児童ポルノの被写体とされた子どもの側に立つのか、児童ポルノを楽しむ大人の側に立つのか、個々の国会議員の立ち位置、資質が明らかになる質疑でした。
 衆議院のホームページ「インターネット審議中継」「6月4日」「法務委員会」とクリックすると、衆議院法務委員会の質疑の応答が聞くことができますので(参議院も同様。日は6月17日)、皆様にも枝野議員、佐々木議員その他の議員(他の議員の中にも児童ポルノを楽しむ大人の側に立った質問をした人が何人もいました)の質疑を聞いていただければと存じます。

また、本年6月5日日本雑誌協会、日本書籍出版協会は「表現者・創作者を委縮させ、出版文化のみならず、自由な表現を後退させる」との反対声明を出しました。日本ペンクラブも、3月17日「単純所持の禁止、販売や流通の関係者にまで及ぶ罰則規定とその厳罰化等は、近年の社会に影を落としている報道・出版への圧迫を尚一層加速させるものとし、表現活動に携わる私たちに強い危機感を抱かせます」「従来のルールを逸脱した表現物から子どもたちを守ることは現行法制度によって可能」「自由に開かれているべき子どもたちの未来が言論表現規制によって不条理に抑圧されることのないよう」などと反対しています。表現の自由を反対の理由としているようですが、この人たちは、被写体とされた多くの子どもたちの耐えがたい苦しみを知っているのか、知っていてこんなことを言っているのか、自分の子どもが被写体とされ多くの人がそれを楽しみ子どもが苦しんでいても「それは表現の自由だから仕方ないんだよ」と子どもに言うのか、子どもの耐えがたい苦しみを容認し、子どもに犠牲を強いなければ、表現の自由は損なわれるのか、こんなことを主張している出版業界や(エロ本会社でない)大手出版社、作家団体は世界にあるのか、作家や出版社に勤務している者は本当に全員こんな考えなのか、要は、児童ポルノやそれに近い本が売れなくなることが困るという意図があるのではないのか、などの疑問がわいてきます。

 日本の国会は、長らく児童ポルノの被害児童よりも児童ポルノを楽しむ大人やそれにより経済的利益を得る人たちを優先させてきました。この度ようやくそれに終止符が打たれたのですが、国会議員、マスコミ、作家、漫画家、出版業界をはじめ、少なからずの人たちにはまだその意識が十分でないどころか、舌打ちをしている人が少なくありません。

 単純所持の処罰化は実現しましたが、その施行までにいかに児童ポルノを廃棄させていくか、施行後いかに摘発していくか、被害児童をいかに保護してケアしていくかなど、今回の改正に伴い必要な取組は山積みです。警察、検察、法務省人権擁護局、厚生労働省、児童相談所などの連携した、強力な取組を強く望みます。
 わが国の取組は、国際的にみれば、漫画・アニメの規制もなく、ブロッキングの取組もまだまだ順調とはいいがたく、国連や諸外国からの批判に応えるものとなっていません。早速、次の課題に向けて、スタートを切ることになりますが、次はもちろん15年もかかることなく、もっと短期間で、児童ポルノから子どもを守るための対策―児童ポルノはすさまじい性虐待ですからーをとれるように活動していく所存です。