ブログ25 岡山県女児監禁事件を機に子ども安全基本法の制定と憲法の改正を

1 2014年7月14日に、岡山県倉敷市の小学5年の女児が小学校からの帰宅途中で行方不明となり、警察の捜査の結果、自称イラストレーターの49歳の男が自宅に監禁していましたが、19日に男は監禁容疑で逮捕され、1階の洋間にいた女児は無事保護されました。
 男は帰宅途中の女児をナイフで脅し、ナンバープレートを偽装した車で連れ去り、監禁用に準備したとみられる1階の洋間に監禁していました。男の自宅は、今年に入り業者に依頼して1階の洋間を改装、廊下に面したドアを外側から施錠できるようにしていた。元々窓があったとみられる場所は外側からふさがれ、壁には防音工事も施されたという、と報じられています(2014年7月21日読売新聞)。男は女児を長期間監禁するつもりで、部屋を用意した計画的な犯行であることは間違いないと考えられます。
 本件では、女児の母親や近隣住民が以前に自宅付近で、不審な車を目撃し、その番号を覚えていたことなどから、容疑者が絞り込めましたが、このようなことがなければ、男は独り暮らしで、かつ、大きな一軒家で、隣家とも離れていましたので、長期間犯人が逮捕されなかった危険はかなりありました。

 本事件で想起されるのは、2000年1月に判明した新潟県三条市女児監禁事件です。この事件では、強制わいせつ未遂で有罪判決を受け執行猶予中の男が、女児を小学校からの帰宅途中で女児をナイフで脅し車で連れ去り自宅の一室に9年2ケ月間監禁していたという事件でした。恐怖の事件がまた起こったわけですが、判明していない同様の事件もあるのではないかと頭をかすめるだけで、戦慄を覚えます。とんでもない危険な社会に子どもはいるのです。

2 通学路等における子どもに対するこの種の凶悪事件は後を絶ちません。最近でも

  • 大阪府熊取町で小学4年の女児が行方不明になった事件(2003年5月)
  • 奈良市で小学1年の女児が性犯罪の前科のある男に殺害された事件(2004年11月)
  • 広島市で小学1年の女児が殺害された事件(2005年11月)
  • 栃木県今市市で小学1年の女児が殺害された事件(2005年12月)
  • 兵庫県加古川市で小学2年の女児が自宅前で刺殺された事件(2007年10月)
  • 千葉県東金市で5歳の幼女が殺害された事件(2008年9月)

など、幼い子どもに対する凶悪な事件が数多く発生しています。本年に入っても、1月11日に神奈川県相模原市で小学5年の女児が、1月27日に札幌市で小学3年の女児が、いずれも男に監禁されるという事件が発生しています(いずれも無事保護)。

2 このような通学路等で子どもが誘拐・監禁、殺害、性犯罪等の被害に遭う事件を防ぐためには、

①スクールバスの導入
②通学路の安全対策、特に防犯カメラの設置
③公園や駅、スーパー・量販店、ファミレス等のトイレへの防犯カメラの設置その他の犯罪が起きる死角をなくす取組
④性犯罪・子どもに対する犯罪を犯した者の再犯防止対策
などが必要です。

(1)スクールバスの導入については、悲惨な事件が起こるたびにその必要性が言われますが、整備はそれほど進んでいません。費用の問題なのでしょうが、子どもの安全が確保されない地域では、人は住めません。どんどん人が出て行ってしまいます。国、自治体は必要な予算をつけて、スクールバスを導入していくことが必要です。

(2)通学路の安全対策はなんと言っても防犯カメラです。私が警察勤務時には、警察からもお願いし、地域の住民による「見守り活動」ということも行われている地域もありましたが、やはり長くは続かないところが多く、今はずっと少なってしまったのではないかと思います。子ども虐待もそうですが、地域の住民に子どものために見守り活動に期待したいことはやまやまですが、残念ながらそれに多くは期待できないのが悲しい現実です。「地域のみんなで子どもを守る」というお題目はいいのですが、そんなことが期待できる地域はほとんどありません。子どもを守るためには、より確実で、実質的に有効な対策を講じなければなりません。それは防犯カメラの設置です。
 私が大阪府警勤務時に、大阪府安全なまちづくり条例を制定し、防犯カメラを通学路等に多く設置しました。古いデータですが、日本で最も早くスーパー防犯灯(カメラと警察への緊急通報装置がついた街路灯のこと)が設置された東大阪市の布施駅前では、二年間でひったくりが46%、自動車等が49%、総数で26%も街頭犯罪が減りました(拙著「日本の治安」(新潮新書))。
 今回の事件は、都市部ではないため防犯カメラの設置が多分少なく、捜査は苦労したと思います。上記の母親等からの情報提供がなければ、ほんとうにどうなっていたか分かりません。通学路に防犯カメラが設置されていれば、連れ去られる状況や、付近を走行する車の状況等が判明し、追跡することが可能になります。もちろん、最大の効果は、犯罪の抑止です。防犯カメラを設置して、「防犯カメラ設置」と大きな看板を掲げれば、その付近一帯で子どもが襲われる危険性はぐっと少なくなります。今回の事件を機に、岡山県はもちろん、他の自治体でも、通学路での防犯カメラの設置を進めるべきです。警察のみならず、都道府県、市町村も主体となって整備を進めるべきと考えます。

(3)また、公園や駅のトイレ、スーパー・量販店、ファミレス等のトイレへの防犯カメラの設置も同様に必要です。児童性虐待者はトイレで子どもを待ち伏せしています。
 2011年3月に熊本市で3歳女児がわいせつ目的の大学生に襲われ殺害されたのはスーパーのトイレでした。児童性虐待者は公園や駅のトイレはもちろん、量販店や100円ショップ、ファミレスのトイレでも待ち伏せして子どもを襲います。子どもを一人でトイレに行かさないのが何よりの被害防止対策なのですが、小学校高学年でも襲われますので、やはり、子どもが利用するトイレには、入り口に防犯カメラと緊急通報装置を設置するしかないのです。
 その他団地や集合住宅の裏側など、人の目につきにくい犯罪の死角となる箇所をできるだけ少なくする、「犯罪防止のための環境設計」といわれる取組が必要です(大阪府安全なまちづくり条例をはじめとする各都道府県の同種の条例に基づき自治体が取り組むこととされていますが、それほど進んでいません)。

(4)次に、性犯罪・子どもに対する犯罪を犯した者の再犯防止対策です。アメリカではメーガン法という法律があり、性犯罪を犯して出所した者を登録し、監視するーインターネットで氏名・住所を公開する州までありますー制度の整備です。
 日本では、新潟県三条市女児監禁事件の後、出所者情報が警察に通報され、警察が「遠巻き」に見守る制度が整備されましたが、法律に基づくものではありません。そもそも、日本では法律上出所者が出所後にどこに住むか報告する義務はなく、転居の際に転居先を報告する義務もありませんので、誰に知られることもなくどこにでも住むことができるのです。
 今回の犯人や新潟県三条市事件の犯人が、出所後どこに住もうが警察に届け出る必要もなければ、子どもに対する性犯罪、殺人、監禁などの犯罪を犯したことを居住地の警察にすら知られることもないのです。本事件の犯人はできるだけ長い間出所しないようにするべきだと思うのですが、日本の裁判は量刑が極めて甘いため、数年で出所してくるのではないでしょうか。こんな男が出所してきた場合には、せめて警察に監視してもらわなければならないと、ほとんどの方がお考えだと思いますが、上記のとおり日本には性犯罪・子どもに対する犯罪を犯し出所した者を監視する法制度はないのです。
 ちなみに、三条市女児監禁事件の犯人は、懲役14年の判決でしたから、既に出所していると思われますが、この男は出所後居住地を任意で届けでたのか、警察の監視を受けているのかは不明です。もし、警察の監視も受けず、どこに住んでいるのかも分からないのであれば、大変な危険が生じているおそれがあります。
 そこで、一定の性犯罪・子どもに対する犯罪を犯した者は出所時に警察に住所を登録し、一定期間は転居などの届け出を義務付け、必要な場合にはGPSで居場所を監視できるようにする、特に再犯のおそれが高いと認められる場合には裁判所が子どもに近づくことの禁止を命じることができるようにするなどの内容の法律を整備することが必要と考えます(拙著「日本の治安」p44参照)。
 これらの者に対して出所及び転居の際に居住地を報告させる義務を課することについて反対する人はほとんどいないと思います。GPSを装着させることについては、法務省が2009年当時海外の事例を研究するなど法整備の検討をすることとされていましたが、民主党政権になってからは動きが止まっています。GPSを装着させることについては、装着させる者への負担の大きさなどから反対する意見もあるかと思います。しかし、装着させる者にとってもいわれのない負担ではなく、子どもを性犯罪から守るという圧倒的に重大な価値からすればやむを得ない措置だと考えます (2009年9月5日毎日新聞には賛成論者の私と反対論者の大学教授の意見が「闘論」として掲載されています。)。

3 女児の連れ去り、連れ去って殺害する、強姦する、あるいは行方不明となるという事件は、頻繁に起こっています。児童性虐待者は昔から存在していましたが、最近のこのような事件の多発は、児童ポルノのまん延、子どもを性の対象とすることを容認する風潮が強まっていることも原因の一つではないかと思います。
 奈良市小学1年女児殺人事件の犯人は「高校生のとき初めてロリコンアニメを見た。あれが忘れられない」と取り調べで話した(2005年1月20日読売新聞)と、1か月間で9歳から13歳までの女児5人を襲った40歳の男は同僚から見せられた小学生の女の子が性的暴力を受ける録画ビデオを見せられ、「これは俺がとったんだ」と言われ、「あのシーンが頭から離れない」「あのビデオ通りのことをやってみたかった」と逮捕後供述した(2005年3月23日読売新聞)と、熊本市3歳女児殺害事件の犯人の大学生の携帯電話には別の少女のわいせつな画像やイラストが保存され、自宅からはインターネット専用サイトで購入したとみられる少女を描いたわいせつな漫画を複数押収した(2011年8月8日熊本日日新聞)と、栃木県今市市小学1年女児殺害事件の犯人は幼児性愛や猟奇的な画像などが数万点保存されたパソコンが押収された(2014年 6月10日産経新聞)、とそれぞれ報じられています。また、児童ポルノの漫画を描いていた漫画家やその愛読者の男たち41人が子どもへの強姦、強制わいせつや児童ポルノ禁止法違反で宮城・埼玉両県警に摘発されるという「女児愛好団事件」が起こっています(2010年5月4日読売新聞)。
 漫画を含む児童ポルノのまん延が、これらの事件の多発の一因であると考えるのが常識的な判断だと思います。少なくとも、子どもを性の対象とすることを容認・助長していることは間違いありません。
 児童性虐待者から子どもを守るための制度して、写真や映像と同程度に写実的なCG・漫画を含む児童ポルノのまん延の防止、子どもを性の対象とすることを容認しない法制度の整備を進めていくことが必要です。

4 日本では、深刻化する子ども虐待、一向に後を絶たない子どもに対する性犯罪等の凶悪犯罪、児童ポルノのまん延、体罰、子どもに危険な製品・飲食物の放置など子どもに対する危害が一向に後を絶ちません。
 その主たる原因としては、法制度の不備と社会の子どもに対する無関心、無関心どころか、「子どもは親の所有物」とする意識のまん延、インターネット上の児童ポルノのまん延等子どもを性の対象とすることを容認・助長する社会風潮、あるいは暴力を容認する社会風潮、子どもの安全よりも経済的利益を優先する企業体質があると考えています。法制度の不備は国会・官庁の怠慢ですが、もう一つの大きな問題は、国民・企業の子どもの安全、幸せに対する意識の低さです。国民の意識が低く、子どもの安全をそれほど求めないので、国会や官庁も何もせずにいても平然としているのです。
 そこで、子ども虐待や子どもに対する性犯罪、児童ポルノ問題、体罰など個々の問題への対策と併せて、社会が子どもを守るための抜本的な法律を整備することにより、国民の子どもの安全・幸せに対する意識を高め、社会の根本から子どもを守る制度を整備していくことが必要不可欠と考えます。
 そのために「子ども安全基本法」の制定が必要であると考え、ホームページ上にその案を掲載しています。是非ご一読ください(1年以上前のもので、現時点で見直しが必要な部分もありますが)。

http://www.thinkkids.jp/archives/359

 さらに、憲法にも、国及び国民が子どもの安全・幸せを最大限実現していく責務があることを明記することにより、より一層、その趣旨が図られるのではないかと考えます。
 緊迫する国際情勢、確実に襲ってくる少子高齢化社会、人口減少、経済成長の鈍化等々日本の未来は暗い予想に満ちています。希望は元気で明るい子どもたちです。子どもを一人残らず幸せにする、元気で明るくいつも笑っている子ども時代をおくらせることほど国全体、国民全体にとって明るい目標はありません。そして、それを実現させることで、上記の多くの問題も解決に向かうのです。最近、憲法を改正しようという動きが高まっています。憲法改正自体に後ろ向きな意見も聞きますが、子どもを守り、子どもを幸せにするためには、憲法を改正し、

日本国憲法○条

1項 国及び国民は、子どもの安全・幸せを最大限実現する責務を有する。
2項 何人も子どもに対して暴力を振るい、又は子どもを性の対象としてはならない。

という条項を設けることが必要と考えます。