ブログ27 虐待による中学生自殺、虐待通告件数7万件超、NPOが虐待家庭に急行とのニュースに接しました

第1 継父の虐待を原因とする中学2年生の自殺について

 報道によると、2014年7月30日西東京市の中学2年生の男子生徒が自宅で自殺し、遺体からは顔や胸、足など数十か所以上にあざがあり、継父から以前より暴行がなされ、自殺の前日には顔や腹に殴るけるの暴行を加え、「24時間以内に首でもつって死んでくれ」と言っていた、と報じられています(2014年8月1日、3日産経新聞)。2010年頃にこの男は生徒の母親と同居を始めた後から虐待を加えはじめ、2013年11月担任教師が右目辺りのあざに気付き、14年4月下旬には担任が目の下のあざに気付いていたが、学校は市教委にも児童相談所にも警察にも通報しませんでした。生徒は「父親から暴力を受けたと認めたが、「お父さんのように強くなりたい」「やられたらやり返す」が家庭の教育方針と話していたことから、担任は「教育熱心な父親」ととらえ、様子を見ることにしたという、とされています(8月8日読売新聞)。
 本件について、8月9日付の毎日新聞に掲載されました私のコメントは「暴力傾向の強い親には、児相や警察を巻き込んで頻繁に家庭訪問し子どもの安全を守る必要がある」といものですが、これは編集上大幅にカットされたものです。本件についての私の考える問題点ととるべき対応については次のとおりです。

(1)まず、学校の問題は、いうまでもなく、児童相談所と警察に通告しなかった
ことです。子どもを殴る父親について、担任の「教育熱心な父親と」いう感想は、体罰容認の体質がしみついた学校現場にいる多くの教師に共通した感想なのでしょう。生徒・子どもに体罰を加えるのは当たり前で、それが犯罪に当たるという意識が全くないことを如実に示しています。
 学校は生徒への体罰を容認するというこれまでの体質から変えないと、虐待通告など思いもよらないことでしょう。体罰容認の体質を改め、とにかく、児童相談所と警察に通告するという対応が必要です。東京都委員会は、8月1日に区市町村教育委員会などに子どもの体にあざなどが見られ、家庭内で暴力を受けている疑いがある場合に、すぐに児童相談所やや子ども家庭支援センターに通告することを求める通知を出したとされていますが(同月2日産経新聞)、下記(2)に述べるように、警察にも併せて通報させるようにすることが是非とも必要です。

(2)次に、学校が児童相談所に通告したとしても、本件は止めることができなかったかもしれないということです。上記(1)でも学校は児童相談所だけでなく、警察にも通告すべき、と述べました。
 2011年10月名古屋市の中学生2年生の男子生徒が頻繁に家庭に出入りしていた男から殴り殺されるという事件がありました。この事件では、学校は1か月に3度も児童相談所に通告していましたが、児童相談所は男が「しつけのためにやった」と虐待を認め、反省の態度を示したため、一時保護もせず、警察に通報もせず、そのまま放置し、「在宅指導が功を奏している」と思っていたと弁明しています(2011年10月23日朝日新聞)。
 本件でも児童相談所は家庭訪問しても名古屋の児童相談所と同様の対応をするか、あるいは家庭訪問すらしない、という対応をしていた可能性はかなりあったのではないかと思います。暴力的な親、同居男性が、児童相談所の職員から指導を受けたぐらいで、暴力が止まることなど楽観的に過ぎます。これまで、どのくらいそのような甘い予想が裏切られてきたかは、児童相談所が一番知っているはずです。それにもかかわらず、今でも、かなりの暴力を受けていても一時保護もせず、警察にも通報せず、「在宅指導」でいい、というのが、児童相談所の基本的な考え方です。

 一般社会では、子どもに1カ月に3度も傷害を与えれば、即逮捕です。それが法治国家です。その男が母親のもとに出入りしていたら許されるとなぜ名古屋の児童相談所は考えたのか、児童相談所はなぜ警察に通報しなかったのか、体罰容認の学校とまるで同じです。
 継続的に子どもに暴力を加える男について、児童相談所の職員が「在宅指導」して、暴力が止まることは通常期待できません。こんな男は児童相談所など何も怖くないのです。児童相談所は一時保護するか、警察に通報して警察の対応に委ねることが、子どもの安全確保のために絶対に必要なのです。警察の対応と言っても、逮捕するだけではありません。傷害の程度がそれほど悪質でなければ、逮捕せず書類送検ですますこともありますし、刑事事件化せず警告だけですませることもあります。いずれにせよ、警察が刑事事件化、あるいは警告で済ませた場合でも、加害者に対する抑止効果は児童相談所の指導に比し比べ物にならないほどあります。再度暴力を振るえば逮捕され、次は実刑ということにもなると身に染みて感じるからです(ただし、それでも効果のない男もいます。この場合は一時保護し、完全に親子分離するしかありません。)。
 さらに、刑事事件化することは、被害児童にとって大きなメリットがあるのです。日本弁護士連合会子どもの権利委員会「子どもの虐待防止・法的対応マニュアル(第4版)」(222頁)では、虐待を受けた子どもにとって刑事手続きの持つ意味として
「①物理的な安全の確保―刑事事件として立件され、虐待を行った親らが逮捕されるなど身体を拘束されることにより、事実上親子分離が図られ、子どもの物理的な安全が確保される。②心的回復のひとつのきっかけー虐待を受けた子どもたちは、守ってもらえるはずの親らから虐待行為を受けてきたのであり、程度の差こそあれ皆心的外傷を負っているといえる。また、それまで「お前が悪いから」「おまえがちゃんとしないから」などと叱責され続けたことにより、あたかも虐待を受けるのは子ども自身に問題があると思い込まされて自己評価が低くなってしまっている場合が多い。さらに、自分が虐待の事実を外部に話したことにより、家族が崩壊してしまったと自責の念に駆られる場合(特に性的虐待のケースに顕著である)もある。親らの虐待行為が犯罪行為であることを公正な機関である裁判所において明らかにし、虐待を行った親らが刑事罰を受けることにより、子ども自身、自らが悪いわけではないと理解することは、虐待を受けた子どもたちが負っている心的外傷を癒すひとつのきっかけになりうる。」

とされています。

 児童相談所の「案件を(警察や市町村に通報もせず)抱え込み、かといって一時保護も適正にしない」という、今の対応を直ちに改めなければ、学校の通告が児童相談所になされるようになっても、このような悲劇はなくなりません。

学校と児童相談所、共に、子どもを暴力から守るべき組織ですが、共に、教師や親の体罰を容認し、いじめ生徒の暴力も見て見ぬふりをし、加害教師や加害親、いじめ生徒に甘い対応をする、警察には余ほどでない限り通報しない、という体質を抜きがたく有しています。このことが、子どもへの体罰・虐待・いじめが一向になくならない、大きな原因であると考えます。

第2 子ども虐待の通告件数が7万件を超えたことについて

1 厚生労働省の発表によると、2013年度の児童相談所への虐待通告件数は、73,765件に上りました。2014年8月4日の東京新聞夕刊に掲載された(共同通信配信)私のコメントの概要は

「児童相談所、市町村、警察が連携して1件ごとに人を出し合い、頻繁に家庭を訪問して子どもの安否確認をしていく必要がある。子どもの安全を最優先に考えた一時保護のほか、親に対しては指導に加えて、虐待の原因となっている貧困などの問題を解決するために、福祉サービスとつなげる援助も重要だ」

というものです。これは私の考えをかなりの分量掲載してくれましたが、付け加えると

「さらに児童相談所の一時保護の適正化と妊婦のときからの子育て困難な母親に対する支援の実施―それを担保するための医師からの通報制度の整備が必要」

ということになります。前メルマガで述べた「子ども虐待死ゼロを目指す法改正」の内容のとおりです。

2 この厚生労働省の発表に関する各紙の報道をみると、「児童相談所の拡充が急務」などとする記事も見受けられますが、私は児童相談所の人員をいくら拡充をしても、上記1で述べた児童相談所の「案件を(警察や市町村に通報もせず)抱え込み、かといって一時保護も適正にしない」という体質、言い換えれば、「他機関と情報共有も連携もしないし、加害親と毅然と対決もしないし、安易に危険な親に引き渡す」、という体質を根本的に改めない限り、全く効果はないと考えています。
 この点については、これまでのメルマガで散々述べたところですが、日本子どもの虐待防止民間ネットワーク理事長の岩城正光弁護士も

「危機介入は児童相談所に任せず、安全確認と保護は警察の職務として法的に位置づけるべきだ。現行法は虐待通告先を児童相談所と市区町村としているが、法改正で通告先に警察を加えるよう提言する。・・・現状は虐待の早期発見・予防から危機介入、親の治療、親子の再統合まですべて「児童相談所一極集中主義」だ。これでは児童相談所が対処しない限り、虐待対応ができないことになる。特に子どもを親から引き離すことと、親を援助するという矛盾する役割を児童相談所にだけ担わせるのは無理がある。通告段階から積極的に警察が介入すべきだ」

と述べておられます(2011年9月1日産経新聞)。

 以前のメールで述べましたが、虐待問題が一向に改善の兆しが見えないのは、児童相談所が虐待を把握しながら安否確認をしない、虐待通告を受けても所在が分からないとほったらかしにする、親から調査拒否されてもほったらかしにするなど情報を他機関に提供せず案件を抱え込み、かといって自分では何もせず多くの子どもを虐待死に至らしめる、24時間対応せず夜間は警察に丸投げ、職員も少なく調査権限もない、虐待家庭が転居しても把握できるような全国的なシステムも整備せず長年ほったらかしにしている、危険な親の言いなりになり子どもを保護しない、あるいは保護しても安易に危険な親元に戻してしまうなど、児童相談所は虐待対応について多くの致命的な問題を抱え、これらは単に人手不足が原因ではないからです。
 これは、そもそも、児童相談所が戦後設立後は戦災孤児を保護することを主たる任務とし、その後も、親から相談を受けて信頼関係を保ちつつ子どもをケアしていくということが主たる任務であったにもかかわらず、虐待通告への対応という、24時間対応できる機動力と豊富な人員、情報収集能力あるいは調査権限、さらには暴力的な親にも毅然として対峙する能力、子どもの安全確保のための計画の作成とそれを遂行する能力及びこれらを日々訓練する職員・組織が必要な業務について、決定的に適性がないにもかかわらず、虐待が激増し深刻化した平成以降も児童相談所に担わせ続け、「介入と援助」という相反する二つの業務を課していることから生じている問題です。
 要するに、児童相談所の体制を拡充しても何も変わらないのです。ひつこいようですが、私が再三申し上げているような法改正を行うことにより、はじめて児童相談所の体質が改まり、市町村と警察との実質的な連携が確保され、子どもの安全が確保されていくものと確信しています。

第3 福岡市が虐待の疑いの通報のあった家庭にNPOに訪問してもらうという取組をしているとのニュースについて

 
 8月4日のNHKのニュース9で、福岡市が夜間に子どもの泣き声通報があった場合にNPOに委託して、NPOに登録している人が家庭訪問するという取り組みを紹介していました。
 これは子ども虐待の対策の現状と問題を如実に現しています。大きくは次の3点です。

(1) 児童相談所が夜間に対応できないこと
(2) 児童相談所が虐待対応に当たる人手が不足していること
(3) 児童相談所が警察と連携しようとしていないこと(もしかしたら警察が連携を拒否しているのかもしれませんが)

 現行児童虐待防止法は児童相談所・市区町村が虐待通告を受けることとされています。しかし、多くの住民は警察に対して110番通報により虐待ではないかと通報をしているのが現状です。警察はこのような110番を受けると、当然ながら、全件現場に急行します。
 それらのうち警察から児童相談所に虐待通告した18歳未満の子どもの数は、平成25年中には2万1,603人に上っていますから、住民から警察への虐待ではないかとの通報はその何倍にも上るでしょう。
 児童相談所のほとんどは夜間対応していません。当直の職員が電話があった場合には警察に通報するように言っているところが多いと聞いています。福岡市はNPOに委託するという方式をとったものと思われますが、そもそも、警察は110番通報により多数現場に急行しているのですから、児童相談所は警察に通報し、警察が現場に急行するというのがあるべき姿です。
 福岡市は福岡県警察に申し入れたのかどうかは不明ですが、なぜ、すでに多数の110通報を受け現場に急行している警察が対応しないのか、不思議です。そもそも、虐待の疑いがある家庭に対しては、児童相談所と市町村と警察が人手を出し合って、連携して、家庭訪問し、子どもの安全確認と親への指導・援助を行っていかなければなりません。警察との連携が不可欠なのです。だとすれば、なぜ最初の対応の時点から警察と連携しないのか。これでは、その後も、全く児童相談所は警察と連携していないのではないのかと心配になります(警察が児童相談所からの依頼を拒否している可能性もないではないのですが、さすがにそんなことはありえないと信じていますが・・・。この点については、福岡市ないしは警察庁の方には事実関係を知らせていただきたいと思います。)

 NPO方の献身的な活動には頭が下がりますが、夜間対応といってもせいぜい9時か10時までしか対応できないのではないでしょうか。午前1時や2時にもNPOの方は対応するのでしょうか。
 厚木市理玖ちゃん餓死事件で理玖ちゃんが「迷子」として保護されたのは午前4時半です。警察官が保護しています。また、虐待家庭の親の中には暴力的な者も少なくなく、児童相談所の職員に対して暴力をふるう、暴言を吐く、子どもに会わせない、ことも少なくありません。NPOの方にはなおさらでしょう。
 24時間対応の在り方、暴力的な親への対応の在り方、その後の警察と児童相談所、市町村との連携した安否確認と親への指導・援助という継続的な業務の在り方からすると、児童相談所はNPOに依頼するのではなく、警察に通報して、現場家庭への急行と虐待されている場合の子どもの保護、その後の継続的な安否確認を連携して対応するのが自然であり、効果的と考えます。

 当該ニュースでは、先進的な取り組みとして紹介しているというニュアンスが感じられましたが、以上から、私には大変な違和感というか、虐待問題が一向に解決しない原因が露わになったとしか思えませんでした。
 児童相談所が体制的にも能力的にも、虐待の危機対応ができないという現実が露わであるにもかかわらず、その対策として必要な警察や市町村との人手を出し合って実質的に連携するという途を取ろうとせず、あいかわらず児童相談所が案件を抱え込み、中途半端にNPOの方にも危険が及ぶおそれのある取組みをしていると感じられました。上記2で紹介した岩城正光弁護士のご指摘の「児童相談所一極集中主義」を拡大しようとするもののようにも思えます。
 もちろん、NPOには、ネグレクト家庭の子どもの学習支援、食事支援、養護施設で暮らす子どもたちへの支援、子育てに悩む母親からの相談に応じるなど、より適切な様々なものが考えられ、その役割には大変期待されるものがあり、大いに活動していただきたいと思います。しかし、本来警察が行うべき危険を伴うものまでではないはずです。

 何よりも、必要なことは、児童相談所が案件抱え込み、現場への急行も、その後の子どもの安全確認もできていない現状を、直ちに改めることです。そして、それには、児童相談所と市町村と警察の3機関が虐待情報を共有し、寄せられた通告には直ちに現場に向かうことができる機関(NPOでなく)が現場に急行し、その後は3機関が人手を出し合ってできるだけ頻繁に家庭訪問して、子どもの安全確認と親への指導・援助を行っていく、それでも虐待の危険がなくならなければ児童相談所が一時保護を適切に行っていくしかないのです。
 児童相談所には警察・市町村との連携の確保に全力を挙げ、NPOには現場に急行してもらうのではなく、ネグレクト家庭、養護施設への支援、子育て困難な親からの相談に応じるなどよりその適性に応じた業務を担っていただくことが必要ではないでしょうか。