ブログ43 新たなご賛同者の紹介と人の命、特に子どもの命が奪われる悲劇の再発防止策を講じない国、社会とは

1 いつも署名活動にご協力賜っておりますことに厚くお礼申し上げます。
 このたび、ご賛同者として、
 
  神崎邦子さま(一般社団法人だんだんボックス代表理事)
  公益財団法人日本ユニセフ協会さま
  東郷良尚さま(日本ユニセフ協会副会長)

におなりいただきました。心より厚くお礼申し上げます。

2 2014年12月4日の朝日新聞DIGITALに、家庭内暴力をふるっていた三男(当時28)を「妻と娘を守る義務がある」として殺害した父親に対して懲役3年執行猶予5年の判決が出されたと報じられています。

 父親は、再三、家庭内暴力をふるう三男について主治医と保健所と警察に相談し、入院させてくれるよう頼んでいましたが、どちらもその対応をとってくれず、益々暴力が激しくなり、「今度は刃物を使うから覚悟しろよ」と言っていた三男を思い余って殺害したという事件です。
 このような相談は弁護士をしている私にも時々ありますが、警察か精神科医に相談してください、必要なら措置入院させてくれます、とこたえています。しかし、それでは、ダメだということですね。
 警察に被害届を出せばいいという考えもあるかもしれませんが、捜査しても、傷害や脅迫の程度が弱ければ不起訴(起訴猶予)ですし、起訴されてもその時点で保釈され、判決は執行猶予ということが考えられ、危険はさほど変わりません。
 逃げればいいのにという考えもあるかもしれません。しかし、家族が逃げると、他人を襲うかもしれず(佐世保の高1少女の同級生殺害事件参照)、安易にその行動をとることもできません。
 家族は「殺すか、殺されるか」という立場に立たされているといっても過言ではないと思います。このようなケースは少なくなく、かなりの方がこういう立場にあり、苦渋しているのではないかと推測いたします。
 私は、精神医療の実態や法律で定められている措置入院の基準、判例などについて詳しくなく、三男の病状につても承知しておりませんので、主治医、保健所、警察の対応のどこが不適切であったか、どうすべきであったかについては指摘する能力はありません。しかし、少なくとも、このような悲劇が起こり、これからも多数起こることが予想されるわけですから、厚労省と警察庁はこのような場合にどう対処するか早急に検討し対応方針を定め、それを現場に周知させ、場合によっては法改正をする、という取り組みが必要です。

3 児童虐待の分野で、ひしひしと感じるのは、責任ある省庁(やはり厚労省と警察庁ですが)において生じた事例の分析とそれを踏まえた再発防止策の策定がほとんどなされていないことです。
 厚労省専門委員会に提出した私の資料では、この10年間繰り返されている児相や市町村、警察の連携のなさ、怠慢により防ぐことができなかった虐待死の事例を多数分析し、その原因と再発防止対策について述べています。そしてこれが、今回の署名活動で求めている法改正案になっています。

[2014.10.31厚生労働省社会保障審議会児童部会 第3回児童虐待防止対策のあり方に関する専門委員会提出資料]

※提出資料は上記をクリックすると、PDFにてご確認いただけます。

 たとえば、今年1月に東京都葛飾区の愛羅ちゃん殺害事件は、児童相談所が見守り中であった家庭について110番通報があり警察官が急行したが、父親から「夫婦喧嘩」と言われ騙され、愛羅ちゃんの体を確認することなく帰ってしまい、その5日後に殺されたという事件ですが、遺体には40か所のあざがありました。このようなケースを防ぐためには、児相の有する虐待情報を警察に提供することにより、110番通報で警察官が現場に赴いた際に親から騙されることなく虐待を見抜くことができるようにしておくことが有用であると誰もが容易に思いつきますし、これ以外に再発を防ぐ対策は思いつきません。しかし、東京都と警視庁、あるいは厚生労働省と警察庁は、このような再発防止対策を1年近く経った今でも行っていません。
 また、厚木市理玖ちゃん事件、横浜市あいりちゃん事件、群馬県玉岡町優将ちゃん事件をはじめ数多くの事案では、児相が虐待家庭を訪問せず、あるいは訪問が遅れ、あるいは間隔が空きすぎたことが、みすみす虐待死させてしまった原因ですが、このような事案を防ぐためには、人手不足の児相が事案を抱え込むことなく、アメリカやイギリスのように虐待情報を共有し、市町村・警察と連携して人員を出し合って可能な限り頻繁に家庭訪問して、子どもの安否確認と親への指導・支援を行うしかないのではないでしょうか。しかし、厚労省はどれだけ同様の悲劇と不手際が続いても、何らこのような対策を講じようとしません。私どもの法改正案についても沈黙したままです。

 人の命、特に子どもの命にかかわる分野でのかかる関係省庁の不作為は決して許されるものではありません。国は、企業に対しては、自動車や電気製品等多くの製品で事故情報の提供と改善・回収(リコール)を求め、その懈怠により人の死傷が生じた場合には厳しい刑事責任の追及で臨んでいます。パロマの瞬間湯沸かし器の事故では回収が遅れたとして社長にも有罪判決が出されています。
 しかし、児童虐待の分野では、何年も何年も有効な対策を講じないことにより毎年毎年多くの子どもの命が失われても、現場の児相等の関係者にも関係省庁の幹部にも何のお咎めもありません。追及すべき都道府県議会や国会も関心がなく、マスコミでも「官」の責任追及や改善策、法改正の提言などの記事にはほとんどお目にかかりません。
 これには、多くの殺人事件やストーカー事件、悪質交通事故等では、亡くなった子どもの仇をとってやると立ち上がり、警察や国会の怠慢を追及するはずの親が、児童虐待の場合加害者であることから、本気で責任追及と改善を求める者がいないということが大きな原因としてあります。この国では遺族が立ち上がらないと、遺族が死ぬ思いで運動しないと政府や国会は動かないのです。これ自体、恥ずべきことですが、親が加害者である児童虐待事案の対策が一向に進まない大きな原因となっています。虐待死事件が起こるたびに設置される検証委員会や学者、識者と言われる人は「虐待防止のためには関係機関がより連携を」などと提言し、コメントしますが、その制度を求めて運動することはありません。
 子どもに関心がなく、子どもの命を奪う事態を改善しようという意欲もない、犠牲になった子どもの遺族から死ぬ思いで訴えられなければ動こうとしない国、関係省庁や社会を変えなければなりません。そのためにも、私どもが署名活動により求めている法改正を是非とも実現する必要があると考えています。署名活動へのご理解ご支援をお願いいたします。