ブログ214 東京都で児童相談所が一時保護を解除して自宅に戻した美輝ちゃんが虐待死させられた事件が発生(1)

1 本年2月14日、東京都台東区で、前年の2023年3月に当時4歳の美輝ちゃんが両親から化学物質と向精神薬を飲まされて殺害させられたとして、警察に殺人罪で逮捕される事件が報道されました。

いまだ事実関係は不明な点が多いですが、報道等によりますと、本家庭は、2016年10月、千葉県流山市から台東区に転入、同市では夫婦げんかによる心理的虐待として対応していた旨の情報提供を受け、東京都児童相談所と台東区が養育困難として、母親を特定妊婦として対応していましたが、美輝ちゃんの出生の2ケ月後に母親がベランダで衣類を燃やすなどの行為をしたことから、浅草警察署から児童相談所に通告され(2019年2月)、児童相談所は美輝ちゃんと兄、姉の3名を一時保護しました。兄、姉の一時保護を約3ケ月で解除し、その後同年9月に美輝ちゃんについても解除し、自宅に戻していました。その後、見守り体制をとっていたとされていますが、2022年3月、家庭訪問したところ母親から面会拒否され、同年9月から11月にかけて、保育園から、ほほに青たん、引っかき傷、たんこぶなど計5回も傷があると通報されていました。しかしながら、父親が「走って転んだ」「自分でひっかいた」などと暴行を否定したため、児童相談所は「虐待ではない」と判断、父親に「けがをしないように注意してほしい」などと要望するのみでした。
その後も、保育所から何度か情報提供がありましたが、美輝ちゃんが殺害される2023年3月まで家庭訪問は一度しかしていませんでした(誤り等があれば訂正しますので、東京都、警視庁にはご指摘をお願いします)。

2 東京都の児童相談所は、これまで江戸川区海渡ちゃん虐待死事件、葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件、足立区玲空斗ちゃんウサギ用ケージ監禁虐待死事件、目黒区結愛ちゃん虐待死事件など児童相談所が関与しながら命を救えない同様の事件を数多く繰り返しています。
私どもは、このような救えるはずの子どもの命を救えないことのないように、東京都に対して、児童相談所と警察との全件共有と連携しての活動を行う態勢の整備を要望していますが、いまだ受け入れられていません。現在でも把握した虐待案件の20%程度しか警察に知らせず、大部分の案件は、警察に連絡せず、独断で、十分な調査もしないまま「虐待ではない、あるいは緊急性は低い」などと甘いリスク判断をしており、本事件でも、保育所から傷があるとの通報を5回も受けながら、「虐待でない」と判断し、みすみす虐待死に至らしめました。目黒区結愛ちゃん事件でも、母親から面会拒否されると「親との信頼関係が重要」としてその後家庭訪問もせず放置し、虐待死に至らしめています。親の言い分を真に受ける、親に迎合する姿勢ではなく、子どもの命を守るためには、正確に虐待リスクを判断し、親から反発を受けても毅然と対応しなければ、いつまでも虐待死はなくなりません。

3 一方、本事件は、当初警察から児童相談所に通告し、一時保護に至った案件ですので、警察も知っていた案件です。その後、一時保護解除後、保育園からの5回にわたるけがをしているという情報は、警察と共有されていたのか、警察には知らされないままだったのか現時点では不明ですが、報道の限りでは、現時点では警察は美輝ちゃんが殺害されるまで、美輝ちゃんを守る活動をしていたとは見受けられません。
大阪府警察では、警察が通告し一時保護され、その後自宅に戻された家庭など子どもが危険な状況にあると府警で判断した家庭については、警察が独自で家庭訪問し、子どもの安否を確認、その状況を児童相談所に通報し、児童相談所の再度の一時保護など適切な行動がとれるよう協力体制がとられています。
言うまでもありませんが、警察の役割は、子どもが虐待死されられた後に親を逮捕することではありません。子どもが犠牲になることのないよう、事前に、児童相談所や市町村と連携して虐待から子どもを守る活動こそ、警察には求められています。今回の事件でも、警視庁は困難な捜査を長期間行ったことについては敬意を表するものですが(足立区玲空斗ちゃん事件も同様)、本事件では、殺害される前に美輝ちゃんを守る活動を警察がどこまで行っていたのか。本件は、警察が通告した案件であり、異常なかなり危険な事案であることは警察も分かっていたはずです。その後の状況について児童相談所から知らされていたのか、知らされていなかったのかは現時点では分かりませんが、いずれにせよ、少なくとも警視庁が把握して通告した案件については、大阪府警察のように、警視庁もその後も関心をもって見守る、具体的には、家庭訪問し、子どもの安否を確認し、その状況を児童相談所に通報するという取組がとられていれば、美輝ちゃんが殺害されることは防ぐことができた可能性は多分にあったと思われます。
他府県のように児童相談所が全ての案件を警察と共有の上、リスクの高い案件につき認識を共通にして、そのような事案につき一緒に家庭訪問するなど協力して取り組むことがいいに決まっているのですが、東京都の児童相談所のような警察に案件をわずかしか知らせない自治体でも、少なくとも本件のような警察が児童相談所に通告した案件については、警察で危険性は把握できているわけですから、大阪府警察の取組を参考にして、警視庁でも可能な限り子どもたちの命を守る取組をとっていただくことを強く求めます。

4 本事件のような児童相談所、警察が関与しながら虐待死に至らしめてしまう事件はいつまでも後を絶ちません。このような事件を防ぐためには、全国的にはほとんどの自治体で実現している、児童相談所と警察との全件共有と連携しての活動、特に、現在急速に普及しつつあるリアルタイムで最新の情報を共有する情報システムを整備が必要です。
下記は、令和5年度補正予算で整備している兵庫県のシステムと、こども家庭庁の令和5年補正予算で自治体への補助事業とされたシステムの説明です。

 

01 警察との全件共有のリアルタイム化

令和5年度補正予算案 事業概要(支援局虐待防止対策課)

 

上記のシステムを整備し、児童相談所と警察とがすべての案件につきリアルタイムで最新の情報を共有することにより、リスクの高い案件を相互に把握し、共通のリスク評価に立ち、連携して活動する態勢を整備すれば、今回犠牲となった美輝ちゃんをはじめ多くの子どもたちの命を救うことができることになります。東京都と警視庁には、これまで以上に、本システムの整備を強く働きかけてまいる所存です。ちなみに、関東で全件共有と連携しての活動すら未実施の自治体は東京都と千葉市だけです。