1 本年6月25日、名古屋市、横浜市等の小学校教師10名程度が、ディープフェイクを含む女児の性的画像をSNSのグループで共有し拡散していた事件が発覚しました。
児童性虐待者がグループをつくり、おぞましい児童ポルを共有し、自慢しあうという事案は、以前から数多く見られます。多数検挙されていますが、氷山の一角で、ネット上には驚くべき数の同様のグループが児童ポルノを作成、交換していると考えられます。彼らの中では、実際に児童ポルノなどの性的画像を作成する人物は「貴重な人材」とされています。教員は児童と接する機会が多く実際に撮影している人間が少なくないことから、彼らの中では「期待」される存在です。これまでも教員が関与した事件は多く検挙されています。
ネットなどに児童ポルノ、13~68歳の男女544人を国際捜査で摘発…国内は高校教諭や中学生ら111人|読売新聞オンライン |
最近ではAI作成のわいせつ画像も共有・拡散されていた事件が摘発されています。
2 今回の事件は、教員グループによる事案ということが注目されていますが、教員や学童施設、学習塾職員らによる性犯罪はこれまでも多発してきました。直近では、広島市の小学校の教師が教室内で女子児童を一人にして目をつぶらせ、自分の下半身を露出しわいせつ行為を企てようとして逮捕されています。
これら教員らによる児童の性犯罪防止対策としては、他から見えない場所で子どもと二人きりになることの禁止、グルーミング行為の禁止、死角となりやすい場所には防犯カメラを設置、子どもの送迎車にはドライブレコーダーを装備、子どもとのメールのやりとりは原則禁止、子ども、保護者から性被害の訴えがあったときは学校でうやむやにせず警察に連絡、事実解明は警察に委ねる、違反者への厳格な懲戒処分などの指針を法律で定めることが必要である旨私どもからこれまで何度も文科省、こども家庭庁等に要望してきました。しかし、全く受け入れられず対策が講じられないまま、児童への性犯罪が多発し続けています。文科省、子ども家庭庁には、本事案を教訓として、是非私どもの要望を受け入れ、有効な対策を講じることを求めるものです。
DBS 法の成立に際して、国及び学習塾事業者、全国的なスポーツ団体その他の子どもと接 子ども虐待・子どもへの性犯罪対策・子どもの被害回復のより一層の充実のため |
3 今回の事件で、新しい問題として緊急に対策を講じなければならない問題は、インターネット、SNSの普及により、児童ポルノ、児童の性的画像が蔓延し、児童性虐待者らによる児童への性的加害行為とともに、児童の性的画像が撮影、拡散が歯止めの利かない状態となっていることです。本事件ではディープフェイクポルノも含まれていたと報じられていますが、最近では、AIの普及により、児童の顔写真さえあれば、それに裸体を合成して、ディープフェイクの児童ポルノ、性的画像を容易に作成、拡散されるようになりました。今や、誰もがディープフェイクの被害者となる状況です。実際に、インターネット上、SNSの共有アプリでは、卒業アルバム等から顔写真をとり、裸体やわいせつ行為をしている画像を合体させた本物と見分けのつかないディープフェイク画像が蔓延し、投稿、販売されています。
かかる行為については、現行法では対策が極めて限られています。違法とされるわいせつ、「児童ポルノ」の範囲が極めて狭いことから、多くの児童の性的画像が違法とされず、捜査の対象にすらなりません。また、AIにより作成された児童ポルノは、現行児童ポルノ禁止法では実在する児童を対象としたものしか違法とされていないため(多くの国はそうではないのでこういう問題は生じていませんが)、18歳未満の実在する児童を対象としたものかどうかの証明を警察ができない限り、検挙できません。したがって、ネット上の膨大な児童ポルノは、実際には実在する児童の顔を撮影した画像であっても、それが実在する18歳未満の児童を対象としたものと立証されない限り(ほとんど不可能です)、警察は検挙できず、放置されるままです。
さらに、SNSで不特定多数に拡散された児童の性的画像は、日本ではSNS事業者に削除義務が課せられていませんから、いつまでもネット上に残り、被害児童に多大な苦痛を与えています。アメリカでは、本年5月に連邦法が成立し(メラニア夫人が尽力したと報じられています)、児童の性的画像につきSNS事業者に48時間以内に削除する義務を法律で課しました。
4 このような問題をクリアするための日本でも有効な法整備が必要です。多くの国では既に法整備がなされており、日本では法整備が遅れていますが、現在、こども家庭庁のワーキンググループで、これらの問題を含めて対応策が検討されていると報じられています。
前国会でAI基本法が成立し、次の対策として、AIの不正利用から児童を守る対策が急務となっていますが、この問題は総務省、法務省、警察庁、文科省等多くの役所にまたがる政府横断的な問題です。こども家庭庁は、「子どもを守る司令塔」として、関係省庁に対策の必要性を説き、理解を得て、次期通常国会で有効な法整備を行う責務があります。この問題には少なからずの関係省庁は対策の必要性を感じています。まかり間違っても、やる気のある関係省庁がありながら、子ども家庭庁が法整備に消極の姿勢で、政府として子どもを守るための有効な法整備を行わないなどの対応はあってはなりません。
これはこども家庭庁の存在意義に関わる問題です。こども家庭庁が設立された現在、子どもを守る施策についてこども家庭庁が沈黙し、必要性を発信しないままでは、他の省庁は言い出しにくいといいますか、事実上言いださせない状態になっています(反対者から攻撃され立ち往生してしまいます)。関係省庁が対策の必要性を感じていても、こども家庭庁が消極であれば、事実上関係省庁は言い出せず、政府として法整備ができないのです(こども家庭庁の積極的な意見に他の省庁が反対することはありえると思いますが、その逆を行ってはこども家庭庁の存在意義がなく、ないほうがいい)。
私どもは、子ども家庭庁設置直前の2023年3月、「こども家庭庁に期待する」としてこども家庭庁を応援するシンポジウムを開きました。
こども家庭庁は、私どもの要望を受け、児童相談所と警察との情報共有システムの整備を自治体への補助事業として令和5年度補正予算で予算措置し(下記リンクp10)、同じく、私どもが長年にわたり要望していたDBS法も制定するなど、大変評価しております。
しかしながら、万が一にも(そんなことはないと思いますが)、本問題、AI作成のものを含む児童の性的画像の拡散から児童を守る取組について、(前向きな関係省庁があるにもかかわらず)必要な法整備をしないということがあれば、こども家庭庁はその設立の意義を失い、「こどもを守る施策妨害庁」になってしまいます。こども家庭庁が次期通常国会で必要な法整備を行うことを強く求めるものです。